研究課題/領域番号 |
16K11343
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
窪田 正幸 新潟大学, 医歯学系, 教授 (50205150)
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研究分担者 |
松田 康伸 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (40334669)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 気管 / 気管欠損 / 創傷治癒 / mTOR / 家兎 / 修復調節 / PCNA / Vimentin |
研究実績の概要 |
本研究では、家兎における気管大欠損部の修復機構とそれを調整する液性並びに細胞性因子を解明し、治癒過程を調整制御することで瘢痕を来さないより生理的修復機構誘導を目的としている。平成28年度は修復機構の詳細解明のため、家兎気管欠損モデルにおいて1週後、2週後、3週後に擬死させ、気管大欠損部修復組織の詳細な組織学的検討を行った。 1週後の気管切開部には炎症組織のみを認め肉芽形成はなく、炎症組織の気管上皮再生率は5.8±10%と非常に乏しい状態で、粘膜下組織(基底膜)の再生も認められなかった。一方、2週後になると、8割で炎症組織の中に肉芽形成が認められたが気管支内腔への突出はなかった。気管上皮の再生は極めて良好で、気管切開部の殆どの領域が上皮で被覆され、上皮被覆率はほぼ100%であった。3週後の状態は、同じく上皮被覆率は100%であるが、肉芽組織は消失し、急性期の治癒過程がほぼ終了している状態と考えられた。 一方、免疫組織学的検討では、PCNA(増殖細胞マーカ)、 Vimentin(間葉系細胞マーカ)、P-P70S6K(mTORシグナル経路因子)を用いてそれぞれ細胞増殖、基底膜形成、mTOR活性を調べたが、1週後、2週後、3週後の順に、PCNA labelling index (LI)は40±4%、60±9%、54±9%、vimentin LIは4±5%、43±8%、39±23%、p-p70S6K LIは31±23%、51±26%、65±24%であった。このことは、細胞増殖活性と基底膜形成は2週後を最大として正常上皮に比べ低下した状態で修復が営まれ、mTOR活性は3週目まで増大していた。 気管欠損部組織再生においては、正常組織よりも細胞活性が低下した状態で修復が営まれ、その期間も3週間と短い治癒経過と結論された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3年計画の初年度は、家兎気管大欠損モデルにおける修復機構の解明を到達目標としていたため、進捗状況としては予定通りである。平成28年の研究成果により、気管欠損部の修復過程が3週間で終了し、急性期反応は2週間までであり、この期間での薬物の影響をしらべればよいことを明らかにできた。また客観的に薬物の効果を検討するための基準値を作成することができた。すなわち、通常の修復過程における時期別の上皮化率、PCNA(増殖細胞マーカ)Labelling index (LI)、Vimentin(間葉系細胞マーカ)LI、P-P70S6K(mTORシグナル経路因子)LIを平成28年度で確立することができ、観的な評価が可能となった。 平成29年度は、この基準値用いて種々の液性因子や細胞性因子がどのように各パラメータに影響を与えるかを検討する。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年の研究成果として、気管欠損部の修復過程が3週間で終了していることを明らかにでき、当初は2カ月後まで経過を観察する計画としていたが、薬剤に対する効果を検討する研究期間を3週間に調整することができ、実験計画の迅速で回転数をあげた実行が可能となった。薬物の効果を検討するために、気管欠損部作成時に病変部に薬剤を散布投与するだけでなく、術後3週までの間に内視鏡で気管内腔から投与する方法も検討したい。 現在までのpreliminary resultとして、mTOR阻害薬ラパマイシンは、創傷治癒を阻害し肉芽形成を予防することがわかっていたが、平成28年の検討結果でもP-P70S6K(mTORシグナル経路因子)は3週まで活性が上昇しているために、mTOR系は維持する方針とする。bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)は、気管欠損部作成時に投与すると肉芽形成を促進するため、術後1週間前後で、気管内等する方針である。このように、現在までの知見を含めて治癒過程の各段階に適した因子の投与法を確立し、創傷治癒調節機構を確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
家兎の使用量が予想より少なくすんだため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度の家兎購入費に充填する。
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備考 |
小児外科教室のホームページ内の研究活動に記載しております。
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