研究課題/領域番号 |
16K11353
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
藤田 恵子 埼玉医科大学, 医学部, 准教授 (80173425)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 肝芽腫 / がん幹細胞 / 腫瘍血管新生 / がん微小環境 / ニッチ / 細胞膜ナノチューブ / 細胞間結合 |
研究実績の概要 |
がん幹細胞は がんの再発や転移にかかわると考えられ、がん根絶の標的細胞とされている。これまで小児悪性腫瘍の肝芽腫におけるがん幹細胞の分離同定法を確立し、腫瘍血管新生との関係について研究を進めてきた。平成29年度は 肝芽腫幹細胞をターゲットとした新たな治療法開発のため、肝芽腫細胞周囲の微小環境(ニッチ)に焦点を絞り研究を推進した。 細胞膜が細長く伸長したチューブ構造である「細胞膜ナノチューブ」は隣接する細胞だけでなく遠隔にある細胞同士も物理的に連結し、細胞から細胞へのシグナル輸送を可能にするネットワークであり、細胞間コミュニケーションをダイレクトに司る新しいシステムとして注目されている。エイズウィルスをはじめ複数のウィルスは、細胞外に出ることなく、このチューブを利用して感染細胞から未感染細胞に感染するとされている。また、腫瘍が組織浸潤能および転移能をもつようになることをがん化と呼び、複数の遺伝子変異が原因とされていたが、近年では細胞から分泌するタンパク質により、前がん細胞あるいは正常細胞のがん化が促進されるといわれている。腫瘍におけるがん化にも細胞膜ナノチューブによるタンパク質輸送が関与していると考えられる。 平成29年度は肝芽腫における微小環境の特性とくに腫瘍細胞間連結機構である細胞膜ナノチューブの形成について検討した。2次元培養によって肝芽腫細胞間に細胞膜ナノチューブが形成されることを確認し、細胞膜ナノチューブの形成を誘導する細胞内タンパク質として同定されたM-Secの発現部位を免疫組織学的に調べた。これと同時に、がん細胞の増殖を促進するとされるmTORの局在についても検討した。また、3次元培養を行い、走査型電子顕微鏡で細胞膜ナノチューブの形成を観察した。 今後は引き続きヒト肝芽腫細胞による培養モデルを用い、細胞膜ナノチューブの形成意義について研究を進めて行く予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腫瘍血管新生は腫瘍周囲の既存血管から腫瘍細胞に新しい血管が伸長し分布するとされ、血管新生阻害剤はこの考えに基づき正常血管をターゲットとして開発されてきた。しかしながら、近年、正常組織と異なる「腫瘍特異的な病的血管新生」が明らかにされ、がん幹細胞そのものが腫瘍血管の内皮細胞へ分化し、血管形成にかかわるという機序が報告されてきた。腫瘍血管において高転移性と低転移性のがんでは腫瘍血管内皮細胞の性質が異なること、腫瘍血管から転移促進分子が分泌されることも確認されている。 肝芽腫幹細胞が関与する腫瘍血管の構築機構ならびに腫瘍の細胞と周囲の細胞から作られる微小環境(ニッチ)のはたらきについて検討をすすめている。 培養ヒト肝芽腫細胞からがん幹細胞の候補となる細胞を分離し、免疫不全マウス(NOD/SCID)に異種移植後、腫瘍再構築能を確認した。マウスに形成された腫瘍組織を分散し、初代がん細胞を用いて無血清培地でスフェロイド培養を行った。3次元培養したがん細胞由来の細胞集塊(スフェア)の周囲には多くの細胞が遊走し、新生血管と思われるチューブ構造も観察された。これらはCD133陽性であった。 また、ヒト肝芽腫細胞間における細胞膜ナノチューブの形成について検討した。2次元培養によって肝芽腫細胞間に細胞膜ナノチューブが形成されることを確認し、チューブの形成を誘導する細胞内タンパク質M-Sec、がん細胞の増殖を促進するとされるmTORの発現部位を免疫組織学的に調べた。さらに、形成された細胞膜ナノチューブをSEMにより観察した。 本研究の実施計画のうち1. 初代がん細胞のスフェロイド3次元培養の実施と腫瘍血管新生の確認、2. 培養肝芽腫細胞間における相互作用についての検討はおおむね順調に遂行することができ、2つの全国学会において発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度までに得られた結果をもとにして、ヒト肝芽腫における腫瘍血管新生メカニズムを明らかにする研究の一環として、肝芽腫細胞による培養モデルを用いて、がんの微小環境(ニッチ)、とくに腫瘍細胞間のネットワークに着目し、肝芽腫細胞間連結機構「細胞膜ナノチューブ」について研究をすすめて行く予定である。 研究計画を立てた当初は未発売であったが、その後、特殊な3次元培養器材が販売されたため、数種類の器材を購入して培養実験をすすめてきた。この実験系を用いることにより、in vivo腫瘍環境に近い培養環境を作り上げていくことが可能であると思われる。この方法を取り入れることにより、実験動物を使用する(動物殺傷実験)という当初の計画を変更することができるのではないかと考えている。 また、細胞接着が良好で電子顕微鏡試料を作製しやすい培養ディッシュ(改良製品)を実験に取り入れた新たな培養実験を遂行し、電子顕微鏡による観察をさらに進めていく予定である。 さらに、イメージング法を用いて細胞膜ナノチューブの形成意義についての実験を遂行する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度に、細胞間ネットワーク「細胞膜ナノチューブ」の特性を詳細に調べるために、タイムラプスによる撮影を実施する予定であり、本実験系に使用するための数種類の抗体を購入する予定である。
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