研究課題/領域番号 |
16K11353
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
藤田 恵子 埼玉医科大学, 医学部, 准教授 (80173425)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 肝芽腫 / がん微小環境 / ニッチ / 細胞膜ナノチューブ / 細胞間結合 |
研究実績の概要 |
平成30年度は 肝芽腫幹細胞をターゲットとした新たな治療法開発のため、肝芽腫細胞周囲の微小環境(ニッチ)、とくに、がん細胞間の連絡に焦点を絞り研究を推進した。 細胞間コミュニケーションは、腫瘍の微小環境において、異種性を誘発する重要な因子として注目を集めている。細胞膜ナノチューブ(membrane nanotube)として知られている新しい形態の細胞間連絡は、離れた細胞同士を直接連結し、ミトコンドリア、マイクロRNA、細胞質シグナルなどを効率よく伝達することから、従来の液性シグナル伝達物質のような物質拡散がおこらず、シグナルの減弱が少ない効率的な連結システムであると考えられている。また、腫瘍が組織浸潤能および転移能をもつようになることをがん化と呼び、複数の遺伝子変異が原因とされていたが、近年では細胞から分泌するタンパク質により、前がん細胞あるいは正常細胞のがん化が促進されるといわれている。腫瘍におけるがん化にも細胞膜ナチューブによるタンパク質輸送が関与していると考えられる。 平成30年度は腫瘍細胞間連結機構である細胞膜ナノチューブの形成について検討した。2次元培養によって肝芽腫細胞間に細胞膜ナノチューブが形成されることを確認し、がん細胞の増殖を促進するとされるmTOR(mammalian target of rapamycin)、腫瘍形成・転移に関与するIL-6受容体発現部位を免疫組織学的に調べた。また、3次元培養用スキャホールドを用いて肝芽腫細胞を培養し、細胞膜ナノチューブを観察した。さらに、走査型電子顕微鏡で細胞膜ナノチューブの構造を観察した。 今後は引き続きヒト肝芽腫細胞による培養モデルを用い、細胞膜ナノチューブの形成意義について研究を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は 肝芽腫幹細胞をターゲットとした新たな治療法開発のため、肝芽腫幹細胞が関与する腫瘍血管の構築機構ならびに腫瘍細胞周囲の微小環境(ニッチ)のはたらきについて検討をすすめた。 腫瘍の微小環境において異種性を誘発する重要な因子として細胞間コミュニケーションが注目されている。新しい形態の細胞間連絡である「細胞膜ナノチューブ」に焦点を当て、その形成について検討した。 まず、培養肝芽腫細胞において、細胞膜ナノチューブが形成されることを確認し、免疫組織化学ならびに走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を行い、細胞膜ナノチューブの特性について検討した。 2次元培養によって肝芽腫細胞間に細胞膜ナノチューブが形成されることを確認し、チューブの形成を誘導する細胞内タンパク質M-Sec、がん細胞の増殖を促進するとされるmTORの発現部位を免疫組織学的に調べた。さらに、in vivoの腫瘍構造により近い性状を示す腫瘍細胞塊(tumoroid)を形成すると報告されているポリマーベースの足場(スキャホールド)を用いて3次元培養を実施した。この培養法により形成された細胞膜ナノチューブをSEMにより観察し、チューブの構造を検討した。 本研究の実施計画のうち、培養肝芽腫細胞間における相互作用についての検討はおおむね順調に遂行することができ、培養肝芽腫細胞において、離れた細胞同士をつなぐ細胞膜ナノチューブが観察され、細胞膜ナノチューブの特徴を明らかにすることができた。研究成果は全国学会において発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度までに得られた結果をもとにして、ヒト肝芽腫における腫瘍血管新生メカニズムを明らかにする研究の一環として、肝芽腫細胞による培養モデルを用いて、がんの微小環境(ニッチ)、とくに腫瘍細胞間のネットワークに着目し、引き続き肝芽腫細胞間連結機構「細胞膜ナノチューブ」について研究をすすめていく予定である。 in vivo腫瘍環境に近い培養環境を作り上げていくことが可能であると思われる、数種類の特殊な3次元培養用器材を購入して培養実験をすすめている。この方法を取り入れることにより、実験動物を使用する(動物殺傷実験)という当初の計画を変更することができるのではないかと考えている。今後は引き続きこれらの培養実験系を用いて、細胞膜ナノチューブの機能の解析を進めていく予定である。 また、培養イメージング法を用いて細胞膜ナノチューブの形成意義についての実験を遂行する予定である。すなわち、細胞膜ナノチューブがどのような物質の輸送に関連しているのか、また、細胞膜ナノチューブを形成する細胞および細胞膜ナノチューブが伸長するターゲットとなる細胞の特徴は何かを明らかにしていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
肝芽腫細胞間を連絡する「細胞膜ナノチューブ」の構造については計画通りに研究が進んでいるが、研究を進めていくうちに、細胞膜ナノチューブの機能について検討する必要があると研究計画を追加した。 細胞膜ナノチューブにおける輸送に関し、どのような物質が輸送されているのかを明らかにする必要がある。輸送されている物質を調べるために必要であると考えられる試薬が発売されたところであり、それを用いて研究を進めていくために、培養実験に必要な試薬(培養用試薬、免疫染色用抗体など)を購入し、実験を進めていきたい。
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