研究課題
本年度は昨年度作成したモデルにおける機能解析を進めた。ラット坐骨神経切断モデルでは、以下の4群、すなわち①神経切断後、即時再建を行いフィブリン固定した群、②神経切断後、即時再建を行い、60万個のASCを損傷部へ移植、フィブリン固定した群、③坐骨神経へ挫滅損傷を加え、フィブリン固定した群、および④坐骨神経の露出のみを行い、フィブリン固定を行った群、をそれぞれ作成していた。術後、足跡分析による坐骨神経機能回復評価、すなわちSciatic Functional Index (SFI)を算出し、運動機能の質的な回復を術後12週目までモニターした。さらに術後12週目において逆行性神経トレーサー法による脊髄全角細胞のtopography評価による過誤支配分析を行った。足跡分析による機能解析では挫滅損傷の③群では術後約1カ月目においてほぼ術前と同レベルまでの回復を認めた。一方、切断群である①群と②群においては術後1カ月目において、SFI値はわずかな回復を認めるのみであった。術後3カ月目のフォロー終了期間においては、①群においては殆ど変化なし、または悪化する個体(関節拘縮)も多く見られた。一方、②群においては、SFI値が悪化する個体の数は少なかったものの、大きく回復する個体も少なく、統計学的に①群と②群間に有意な差を認めなかった。逆行性神経トレーサー法による過誤支配分析においても、ほぼこれらを支持する結果が得られた。今回の動物モデルにおいて、脂肪組織由来間葉系幹細胞移植による有意な神経再生の質的改善は認めなかった。一方で、神経切断・縫合モデルに頻繁に認められる、経時的な運動機能悪化(関節拘縮)を示す個体が細胞移植群において少なかったことから、細胞移植による何らかの調整効果がある可能性が示唆された。今後、細胞移植の方法や時期の至適条件を検討していく必要がある。