研究課題
これまで、脊髄損傷に対してラット骨髄間質細胞移植の効果を調べてきた。その結果、歩行機能の改善とともに、脊髄損傷部の組織学的な修復と再生軸索の伸長が確認された。しかし移植細胞は移植後2週前後で消失した。得られた効果は移植細胞自体が組織修復の足場として働くためではなく、移植細胞から放出される何らかの有効因子によるためであると推察できる。そこで本研究では骨髄間質細胞の培養上清を投与することでその効果を調べた。ラットで脊髄損傷を作成後直ちに、Alzet osmotic pumpによって、脳室の髄液経由で培養上清を持続的に4週間投与した。ラットの行動はBBB スコアに基づいて毎週1回、2名の研究員で判定した。結果は、ラットのBBBスコアが顕著に増加し、歩行機能の目覚ましい改善が見られた。歩行の改善はこれまでの細胞移植による場合よりも顕著であった。組織修復に関してはこれまでと同じで、損傷中心部にはアストロサイトは侵入せず、代わりに1型コラーゲンとラミニンを主体とするマトリックスが基盤となり、多数の再生軸索が伸長していた。軸索はシュワン細胞によって囲まれていた。これらの結果は、脊髄損傷ラットでは、培養上清に含まれる何らの因子の複合的な働きによって機能的な改善がなされることを示している。また組織学的には、中枢神経系組織の再生ではなく、末梢神経的な修復によって再生軸索を伸ばし、シナプスを形成しているものと考えられた。中枢組織の修復が末梢神経と同じ状態で行われることは驚きでもある。これらの結果は、基礎的にも臨床的にも注目に値する結果である。なお、培養上清に含まれる栄養因子はいくつか同定しているが、それらの単体投与では培養上清投与の場合ほどの効果は示さない。
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