本研究は敗血症時のNETs形成にアンチトロンビン(AT)III製剤が及ぼす影響を明らかにすることを目的としている。平成31年度(令和元年度)の目的はこれまでのin vitroでの成果を英語論文化することと、マウスモデルでの検討を行う事であった。 前年度までの結果について詳細に解析し、敗血症患者データについては、慢性疾患による経口ステロイド投薬治療の有無でin vitroでのNETs形成に一定の傾向が認められた。ステロイド投薬治療を受けている場合、NETs形成能力が低く、そういった好中球に対してはATIIIの効果は認められないが、ステロイド投薬治療の無い場合はNETs形成が多く、ATIII添加によりNETs面積が減少していた。さらに、健常人好中球における検討でもLPS刺激に対してNETs形成能力が低い場合はATIII添加による効果は認められず、LPS刺激に対してNETs形成能力が高い場合にはATIIIに反応し、有意にNETs面積が減少していることが確認された。しかし、NETs形成能力についてどういった法則があるのかについては不明であった。 また、ATIIIにより抑制されるNETsについてはPKC経路を用い、PAD4の核内移行が認められた為、好中球機能を残したままNETsを放出するvital NETosisではなく、細胞崩壊を伴うsuicidal NETosisを抑制していると考えられた。vital NETosisは感染防御に、suicidal NETosisは臓器障害に関与することが報告されており、ATIIIが臓器障害を防止する可能性を示すと考えている。 一方で、マウスモデルについてはすでにエンドトキシンモデルを用いてATIII投与の効果を確認しており、現時点では盲腸結紮穿刺による敗血症モデルで解明すべき新規機序について明らかに出来ていないため検討は行わなかった。 現在、in vitroにおける検討内容を英語論文化し、英文雑誌に投稿中である。
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