研究課題
本年(平成30年)度の研究目的は、昨年(H29年)度に引き続き蘇生後脳症に関する近赤外線時間分解分光法(TRS)モニタリングの有用性を検討した。まず、全身麻酔下のブタ (10-13kg)の頭頂部の右側に矢状静脈洞を避けてTRSの送受光プローブを装着した。心室細動による5分間の心停止を誘発後、心肺蘇生(人工呼吸と胸骨圧迫)を5~10分間行い、アドレナリン静注と電気的除細動により自己心拍を再開させた。酸素化型Hb(oxy-Hb)、脱酸素化型Hb(deoxy-Hb)、脳血液量(総Hb)、脳酸素飽和度(ScO2)、散乱係数(us’)の変化をTRS(ピコ秒パルス光:759 nm, 801 nm, 837 nm)を用いて連続的にモニタリングした。昨年度の研究結果から、TRSから得られる情報が解析法の違いにより異なることが明らかとなった。つまり、modified Beer-Lambert law (MBL)解析により頭部の浅い領域(特に頭皮)が検出でき、一方、光子拡散理論に基づく時間分解分光法(DT)解析により、深部の脳領域の検出が可能になることが示された。そこで、今年度は頭皮を剥がずにTRSのプローブを頭頂部に装着し実験を行い、脳深部領域の検出に優れたDTによる解析法を用いて検討した。心停止に伴い最低レベルまで低下したScO2は、胸部圧迫開始後に徐々に上昇し、ScO2が50%以上に上昇した時点で電気的除細動を行うことでROSC(自己心拍再開)に成功し、ROSC後にScO2の急激な上昇が認められた。一方、TRSの散乱係数(us’)の変化と、MRI のT2強調画像所見の比較から、脳浮腫発症例ではus’の減少が認められた。この結果は、「TRSを用いてus’の変化を連続的にモニタリングすることで脳浮腫発症を早期に検出できる可能性がある」ということを強く示唆するものであった。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
Adv Exp Med Biol.
巻: 1072 ページ: 83-87
10.1007/978-3-319-91287-5_14