敗血症の定義は「感染により制御不能な宿主反応に起因した生命を脅かす臓器障害を合併した状態」と定義されている。しかし「侵襲自体の評価」や「生体反応の程度」を正確に評価することは容易ではなく、新規評価法の開発が求められてきた。H29年度までの研究では、プロテオミクスを用いた敗血症の重症度診断法の開発を試みた。すなわち臨床検体においてプロテオミクス解析結果と臨床経過を比較検討することにより、高度侵襲下においては1)凝固関連タンパク質、2)鉄代謝関連タンパク質、3)補体関連タンパク質の変動が顕著にみられ、これらを複合して得られる敗血症の診断成績は極めて高い(感度:0.933,特異度:0.941)ことが確認された。しかし、各因子がどのように敗血症の重症化に寄与しているかについては明らかではなかった。そこで最終年度の研究においては、これらのうち最も挙動が顕著にみられた凝固関連因子に焦点を当て、まず敗血症においてみられる凝固異常については、各種の細胞から放出されるextracellular vesicleの関与が大きいことを確認した。すなわち、特に単球や好中球から放出されるmicrovesicleの表面にはtissue factorやフォスファチジルセリンなどの内、外因系凝固カスケードのイニシエータが発現しており、これを起点とする凝固反応が敗血症重症化に寄与していることが明らかとなった。今後の研究では、特に鉄代謝関連タンパク質が関与していると考えられるfree-hemeによる組織障害、凝固活性化によって生じる臓器障害の発生機序に関して研究を継続していく予定である。
|