研究実績の概要 |
集中治療の進歩により、敗血症患者や重症頭部外傷患者の救命率が向上している。その一方で、近年、ICU退出後の慢性期において、記憶障害、ストレス症状、うつ病、倦怠感、長期的筋力低下といった脳機能障害が高頻度に生じており、生活の質(quality of life, QOL)の低下や社会復帰へ支障を来すことが報告されている。こうした病態は、2012年Society of Critical Care Medicineの合同会議においてPost-intensive care syndrome(PICS)という概念にまとめられた。患者QOLの保持、患者関係者の負担軽減、医療費削減に直結しうるPICS対策が求められるが、未だ有効なモニタリング法および治療法が確立されていない。本研究の目的は、重症疾患患者(敗血症および頭部外傷)が慢性期に発症する中枢神経系機能障害の予後予測法(バイオマーカー)および治療薬を開発することである。このために、各種サイトカイン、特に認知症に関連する内在性神経保護因子、ヒューマニン(Humanin, HN)に注目し、病態への寄与、治療薬としての可能性を検討している。最終年度は、これまでの検討で血中のHN濃度を評価するのに最適と考えられたELISA方法を用いて、PICSの中で特に脳機能障害の病態を再現したマウスモデルから採取した血液と臨床検体のHN濃度を測定した。また、 臨床応用を視野に入れ、市販のHN ELISA kitの測定結果との比較を行った。その結果、マウスの血中におけるHN濃度は再現性の高い結果を得られた。しかしながら臨床検体に関しては、個体によるばらつきが大きく、本プロジェクトで構築したELISA方法では、市販のELISA kitや他の炎症性バイオマーカーとの相関関係を認めなかった。現在、本プロジェクトで構築したELISA方法の臨床応用を目指して、臨床検体の測定でも再現性の高いデータを得られるように改良を試みている。
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