本研究目的は妊娠高血圧症候群(PIH)における血管内皮細胞障害の機序と保護因子の解明である。第一に血管内皮細胞上で防御機構 を有するglycocalyx(Gcx)層のPIHにおける脱落を部位別に形態学的に検証し、Gcxと同構造を有し、第Xa因子やトロンビンを制御する抗凝固薬であるdanaparoid(DS)とthrombomodulin(r-TM)のGcx層保護効果を検証することである。 PIHモデルでは有意に観血的動脈圧上昇、ヘマトクリット値上昇、血小板数低下、Vascular endotherial growth factora receptor1(VEGFR1)上昇、胎児体重平均/母体重低下、胎児死亡率上昇を認め、PIHの臨床病態と近似することが示された。電子顕微鏡による脳・腎糸球体の毛細血管Gcx層の検証が行われ、PIH群では両臓器ともにGcx層の破綻が示された。また、腎糸球体ではDS、r-TMともにGcx改善効果(p<0.05)を示す一方、大脳では効果が示されなかった。以降、プロトコルを変更し、腎糸球体標本での検証を継続した。腎糸球体における共焦点レーザー顕微鏡を用いたGcxの主構造であるSyndcan1の免疫染色量は有意に低下したが両抗凝固薬ともSyndcan1低下への効果を認めなかった。機能的検討ではPIHで尿中アルブミン量、蛍光顕微鏡を用いたEvans Blue 染色による腎糸球体血管透過性亢進を有意に認めたが両薬剤とも改善を示さなかった。ヒト臍帯静脈血管内皮細胞におけるGcx層形態学的変化とDS、r-TMのGcx層保護効果機序の検証実験は、1)大脳でのEvans blue染色の評価が困難であり予想以上に検証時間を要したこと、2)平成29年6月-8月の3ヶ月間、当施設動物研究施設改修のため、当該実験施行が遅延したこと、により実験遂行の遅延が生じ研究施行不能となった。
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