研究課題/領域番号 |
16K11429
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研究機関 | 兵庫県立尼崎総合医療センター(研究部) |
研究代表者 |
西内 辰也 兵庫県立尼崎総合医療センター(研究部), その他, 医師 (60588804)
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研究分担者 |
平出 敦 近畿大学, IRセンター, 教授 (20199037)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 心停止 / 学校 / 危機管理マニュアル / シミュレーション |
研究実績の概要 |
本研究では、学校における心停止等の医療緊急事案発生時に備えた実効的な対応マニュアルを作成することを目的とした。当初は教職員によるグループワークでマニュアルを作成し、その有効性についてシミュレーショントレーニングを用いた講習会で確認する手順で計画していた。しかし、心停止等の緊急に介入を要する事案の発生は学校現場において稀であり、実体験がない中でグループ討議をしても実効的なマニュアル作成は困難との意見が養護教諭から出された。このため、最初に心停止が発生したとの想定でシミュレーションを行い、シミュレーション後のグループ討議で出た意見・課題・改善点をマニュアルに必要な項目として抽出することとした。 2018年1月より尼崎市内の中学校8校ならびに伊丹市内の小学校1校の計9校で尼崎市消防局と合同で心停止を想定したシミュレーション研修を実施した。科研費により購入した視聴覚機材により、忠実性の高いシミュレーション研修を実施でき、参加者がシナリオに没入することができた。その結果、AEDの設置場所変更、緊急時校内・校外連絡手段の確立、救急要請方法・緊急車両進入路・既成のアクションカード・心停止という”よくない情報”の保護者への伝達方法の見直し等、マニュアル作成に必要な事項を実際の体験に基づき抽出できた。 研修終了後、各校で応急手当の対応に関する見直しが自発的になされるなど、シミュレーション研修をきっかけとして教職員の医療緊急事案への対応に関する意識に変化があったことが確認された。科研費による研究期間終了後も尼崎市内でのシミュレーション研修を継続し、市内公立学校に勤務する養護教諭らと協力して同市内統一の医療緊急時対応マニュアルを作成する予定としている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者の職場異動に伴い研究フィールドの変更を余儀なくされたため、研究の実施に若干の遅れが生じたが、研究代表者が所属する医療機関の所在地(兵庫県尼崎市)の消防局および教育委員会の全面的な協力を得ておおむね予定通り研究を実施できた。 養護教諭との議論から、心停止を想定したマニュアルをグループワークで作成することは時間的にも、また心停止対応への実体験がない教職員が多い点からも困難であるとの指摘を受けた。このため当初の研究計画を変更し、心停止を想定したシミュレーション研修を実施し、参加者の振り返りからマニュアルに盛り込むべき要素を抽出することとした。 2019年5月までに合計9校でシミュレーション研修を実施している。研修毎に想定外の課題が抽出できており、尼崎市内にある17校での研修が終了した時点で医療緊急時対応マニュアル暫定版(尼崎市内版)を作成することとしている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究によるシミュレーション研修は研究代表者が所属する尼崎総合医療センターが中心となり、尼崎市消防局、尼崎市教育委員会の協力のもと本年度以降も継続的に実施する体制が構築された。尼崎市消防局では平成31年度の重点課題として本研修を取り上げていただくなど、研究の意義に賛同していただいている。科研費による研究期間終了後も尼崎市内で研修を継続し、心停止を想定した医療緊急時対応マニュアルを尼崎市内の公立学校に勤務する養護教諭、尼崎市消防局と協力して作成する予定である。これらの成果については、研究代表者が医学系学会・論文で発表し、養護教諭らが学校保健関係の学術集会等で研究発表を行う予定である。 尼崎市消防局では、本研究によるシミュレーション研修の成果を鑑み、これまで個人スキル習得を目的として実施していた心肺蘇生法講習会にシミュレーションの要素を盛り込んだ新しい心肺蘇生法講習会を企画している。本研究のシミュレーション研修は状況付与のための動画作成や仮想心停止場所にいる見学者が職員室や保健室の教職員の動きを確認できるよう動画配信するなど特別な機材を要する。尼崎市消防局が実施予定の研修では、こうした視聴覚機材は用いる予定はないが、心停止への教職員の対応能力ならびに振り返り時の課題・改善点抽出に関する両者の効果を比較することで、シミュレーション研修に必要な要素を抽出できるものと期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者の予定外の勤務先異動により、研究の進捗に若干の遅れが生じた。また、研修開催校の教職員参加によるシミュレーション研修実施が本研究では必須であるが、学校側の行事等の都合により一年間に開催可能な研修時期・数が限られる。このため、次年度以降に研修実施(本報告書作成時点で5校が決定済み)に必要な経費ならびに研究発表のための経費として使用することを予定している。
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