研究課題/領域番号 |
16K11430
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
中尾 篤典 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 教授 (40648169)
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研究分担者 |
石川 倫子 兵庫医科大学, 医学部, 非常勤講師 (40566121)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 水素ガス / 水素豊富食塩水 / 腹腔内投与 / 炎症 |
研究実績の概要 |
腹膜炎などの開腹手術のあとには、腸管が麻痺し、腸内細菌の異常増殖により敗血症と呼ばれる全身の感染症がおきたり、また腸が動かないため、栄養不良を来たし、術後の開腹が著しく遅れることがある。 本研究は、治療的医学ガスである水素を溶解させた生理食塩水(水素豊富生理食塩水)の腹腔内投与により術後イレウスが予防できるか、もし効果を示すのであればそのメカニズムは何かを小動物を用いて解明することである。 実験は主にマウスを用いて行った。綿棒を用いて腸管を全長にわたり軽くこする操作Surgical manipulation (SM)を行うことで腸管運動麻痺が起こることを基礎実験で示し、水素豊富生理食塩水、および水素を含まない生理食塩水をSM後に腹腔内投与することを本実験で行った。実験群は4群で、Sham/H2(-), Sham/H2(+), SM/H2(-), SM/H2(+)とした。SM/H2(-)群では、24時間後の腸管輸送能は著しく低下し、筋層への好中球浸潤も著明であったが、水素豊富生理食塩水を投与することで、腸管麻痺は改善し、腸管の炎症も軽減した。 概ね仮説は証明され、マウスとラットは種が異なるためマクロファージの性質も異なることが過去の他施設の研究でわかっており、水素治療の普遍性を示すためにも、マウス、ラットで類似の実験を行う必要があり、本年度は最終年度として、より臨床応用を考慮し、ラットを用いた実験を行っていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は平成28年度に施設を異動したため、研究室の立ち上げに時間を要した。動物実験の手続きやプロトコール承認には数ヶ月を要し、研究室も存在しなかったため配管を含め工事を要したため、予定より遅れたが、以後の研究は概ね順調に経過しているといえる。 基礎実験の結果は学会や研究会で発表し、そこから派生するアイデアも生まれた。腸管の炎症は明らかに水素含有生理食塩水投与で改善しており、ほぼ仮説は証明できた。具体的には、マウスを使ったモデルで、炎症の指標となる腸管の筋層の細胞浸潤は水素豊富生理食塩水投与で有意に減少した。SMによって誘導された好中球の浸潤が、水素豊富生理食塩水群では有意に減少しており、同時にIL-6やINOSなどの炎症性サイトカインmRNAの増加が抑制されていた。また、NOは腸管運動を抑制するが、水素によりINOSの発現が抑制されるため、腸管のNO量が減少していることも証明された。
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今後の研究の推進方策 |
(今後の推進方策)平成30年度以降は、平成28,29年度の研究成果をもとに、引き続き腸管麻痺モデルを用いた実験を継続する。水素豊富生理食塩水は、これまでは1.6PPMのほぼ飽和の濃度で行ってきたが、今後は濃度を減らしていき、投与のタイミング、および最適投与量の検討を行う。また、これまで、主にマウスでなされてきたが、ラットは腸管のマクロファージの性質がマウスと異なり、29年度はラットでも類似の実験を行った。当初の予定通り、そのメカニズムについても検討する。これまでの成果で、腸管に発現する一酸化窒素が深く関与することがわかってきた。今後は、その関連の酵素などをウエスタンブロットなどで解析していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)当初計画通りに使用したが端数が生じた。 (使用計画)平成30年度以降は、基礎実験のデータをもとに、主にラットで行い、水素の効果が種特異的でないことを示すことが必要である。主に動物や試薬、抗体に使用する予定であり、成果の発表のための学会参加費にも使用する予定である。
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