研究課題/領域番号 |
16K11431
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
小谷 穣治 神戸大学, 医学部附属病院, 教授 (80360270)
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研究分担者 |
石川 倫子 兵庫医科大学, 医学部, 非常勤講師 (40566121)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | インターロイキン18 / 敗血症 / 性差 |
研究実績の概要 |
本研究は、過剰なIL-18の抑制が男性や閉経後の女性における敗血症の予後改善に有効であるか、基礎的データを確立することである。平成29年度は、前年度に採取した盲腸結紮穿刺によるマウス重症敗血症モデル検体および同モデルへの抗IL-18抗体投与検体の解析と、変動のあった臓器について、ヒト培養細胞での検討を開始することを当初の目標としていた。実際には、採取が完了した重症敗血症モデル雄、雌、卵巣摘出雌マウス、それぞれの野生型、およびIL-18ノックアウトにおいて、術後24時間における生化学データ(AST, ALT, 総ビリルビン, LDH, アミラーゼ, 尿素窒素, クレアチニン)の解析を行ったが、有意差は認められなかった。そのため、肝臓、腎臓における変化は少ないと考え、肺における壁肥厚の有無、好中球集積及び好中球細胞外トラップ形成などについて測定中である。また、術後6時間の群を新たに作成し、肺のmRNAを抽出して関連因子について検討を行っている。以前発表したエンドトキシン血症モデルと同様に雄性マウスにおいてIL-18のノックアウトにより生存率が改善すると考えていたが、本検討での雄性マウスの生存率改善は認められなかった。一方で、雌においてはIL-18のノックアウトで有意に生存率を改善させたことから、現時点では抗IL-18抗体投与実験よりも、エンドトキシン血症と盲腸結紮穿刺における結果の差についての検討を先行させている。 ヒト培養細胞については、現時点では肺における変化が認められると予測されるため、肺血管内皮細胞の二層培養を行い、lipopolysaccharide刺激での透過性の変化を確認し、IL-18の肺血管透過性亢進への影響を検討中である。またHL-60細胞を分化させて好中球様細胞を作成し、IL-18が肺への好中球浸潤や好中球細胞外トラップ形成に影響を及ぼすかを検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度に予定していた、マウス検体解析やヒト培養細胞における検討は開始されており、いくつかは結果が得られている。一方で、当初の想定とは逆に、雄性ではなく雌性においてIL-18ノックアウトマウスで生存率が改善する効果が得られており、抗IL-18抗体投与による検討では当初の目的を達成することは難しいと考えている。しかし、モデルの違いによるIL-18濃度の差や、雌性マウスにおけるIL-18の重要性など、新たに明らかとなったデータから、敗血症におけるIL-18濃度は臓器保護の重要な因子となり得るのではないかと考察しており、マウスでは盲腸結紮穿刺モデルを用いて雌雄について変動に差のある因子を確認し、ヒト培養細胞においてはエンドトキシン(lipopolysaccharide)刺激を用いてIL-18の濃度による効果の違いについて解明できるのではないかと考えている。実験手技は安定し、施行状況は順調であること、当初の目的を十分に達成するには至っていないものの、新たな可能性を発見できたことから、研究全体の進捗状況は概ね順調であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当初想定していた雄性におけるノックアウトマウスでの生存率改善効果は認められず、雌性において有意に改善する結果が得られた。理由としては、先行研究で行ったエンドトキシン血症においては、血中のIL-18濃度が10.000 pg/mL程度まで増加したのに対し、盲腸結紮穿刺モデルでは100 pg/mL程度までであり、血中濃度の増加に大きな違いが認められた。また、エンドトキシン血症モデルでは24時間以内の生存率が50%以下であったが、盲腸結紮穿刺モデルでは65%程度であり、侵襲度にも違いが認められた。一方、雌性では野生型、ノックアウトともエンドトキシン血症で100%の生存率であったのに対し、盲腸結紮穿刺モデルではノックアウトマウスは50%程度まで下がっており、雌の生存におけるIL-18の重要性が考えられる。エンドトキシン血症へのモデル変更も考えられるが、臨床的な敗血症像とはやや解離があり、盲腸結紮穿刺モデルの方がより臨床像に近いと考えられるため、マウスを用いた検討では盲腸結紮穿刺モデルにおいて雌性のIL-18の影響を先に考察すべきと考えている。一方で、ヒト培養細胞を用いた検討では引き続きエンドトキシン(lipopolysaccharide)を用いて検討を行い、添加するIL-18濃度の違いによる影響及びその機序などを明らかにすること予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
予想していた結果とは異なる結果が得られたことから、抗IL-18抗体投与実験が有効とは考えにくい状況となり、抗体購入費用が使用されていないことが理由である。現時点では雄への抗体投与実験は研究の目的を達成するために有効とは考えにくい。一方で、新たに雌でのIL-18の重要性が明らかとなり、今後のデータ解析結果によっては雌への抗体投与の可能性もある。また、ヒト培養細胞におけるIL-18濃度変化を検討するにあたってはリコンビナントIL-18投与が必要であり、当初の必要量よりも多い量が想定されるため、これらの試薬の購入に充てることを想定している。また、所属変更により研究施設が変更となり、平成29年度まで使用していた備品、物品などで引き続き使用できないものがあるため、それらの購入費用としても使用する。
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