Notchシグナル伝達は、幹細胞の自己複製および細胞運命決定など、発生過程および恒常性維持過程の多様な局面において機能する。 NOTCH1の不活性化変異は皮膚癌および口腔・食道癌において頻繁に検出され、腫瘍抑制因子としての役割を示唆している。しかしその詳細はよくわかっていない。そこで、可及的に生理学的なマウスの実験モデルを用いて、口腔・食道腫瘍形成に対するNotch1欠損の寄与を調べた。4-ニトロキノリン-1-オキシド(4-NQO)によってマウスに誘発された舌および食道腫瘍は、基底細胞におけるNotch1発現の減少を呈し、ヒト腫瘍と病態生理学的類似性を示した。次にNotch1の扁平上皮特異的ノックアウトマウス(N1cKO)を作成して解析した。上皮はN1cKOマウスで正常に形成され、65週目までに複数の皮膚腫瘍が自然発生したが、舌および食道に腫瘍は発生しなかった。しかし、4-NQOによる腫瘍誘発実験を行うと、癌および前癌病変の発生が野生型よりもN1cKOマウスで早く起こることを見出した。さらに腫瘍はNotch1陰性上皮から優先的に発生していた。これらはNotch1欠損上皮の腫瘍感受性を示す。そのメカニズムとしてTERTに着目した。 Notch1はTERTの発現を促進した。またマウスの加齢に伴うテロメア短縮はNotch1欠損基底細胞において正常基底細胞より速かった。まとめると、NOTCH1の異常は扁平上皮形成にほとんど影響を及ぼさなかったが、少なくとも部分的には加速されたテロメア短縮を介して、腫瘍発生の素因となることを示す。
|