研究課題
わが国の肺炎による死亡数は誤嚥性肺炎を含め年々増加し,死因の第3位となった.細菌性肺炎には抗菌薬による治療が選択されるが,重症化した場合,好中球エラスターゼ阻害薬を併用し,エラスターゼ過剰分泌による肺傷害のコントロールが試みられることがある.しかしながら,そのエビデンスは十分でなく,また,肺炎におけるエラスターゼ放出メカニズムには不明な点も多い.そこで,本研究では肺炎球菌の病原因子であるニューモリシンが好中球の細胞膜を融解し,エラスターゼを漏出させることで宿主を傷害するという仮説を立てた.この仮説に基づき,平成28年度は実験計画通り、肺炎球菌の自己融解酵素による溶菌とニューモリシン漏出との関係、ならびに宿主細胞に対する自己融解酵素およびニューモリシンの毒性を解析した。まず,肺炎球菌野生株,自己融解酵素欠失株,およびニューモリシン欠失株の培養上清をヒト好中球培養液に加え,細胞傷害性試験を行ったところ,肺炎球菌の野生株上清のみが有意に好中球へ細胞毒性を示すとともに,同上清中のニューモリシン漏出量は高値を示した.そこで,ヒト好中球に組換えニューモリシンを作用させると,好中球を傷害して内因性エラスターゼを漏出させた.しかしながら,組換え自己融解酵素は同細胞に対して傷害作用を示さなかった.以上の結果より,肺炎球菌は自己溶菌によりニューモリシンを漏出させ,好中球の細胞死を誘導することでエラスターゼを漏出させることが明らかとなった.
1: 当初の計画以上に進展している
平成28年度の研究予定だけでなく,平成29年度の計画の一部まで平成28年度に行うことができたため.
当初の計画通り,平成29年度は好中球エラスターゼの宿主細胞に対する毒性について解析を行う.また,計画が予定以上に伸展しているため,平成30年度に行う予定であった,肺炎球菌気管支感染マウスモデルの確立と,ニューモリシンの気管支投与マウスにおける,好中球エラスターゼの局所的活性上昇誘導能についての解析を前倒しで行う.
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件) 図書 (1件) 備考 (1件)
J Dent Res
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1177/0022034516687248
Dent Mater J
Sci Rep.
巻: 6 ページ: -
10.1038/srep38013.
Biochem Biophys Res Commun.
巻: 480 ページ: 173-179
10.1016/j.bbrc.2016.10.021.
http://www.dent.niigata-u.ac.jp/microbio/microbio.html