研究実績の概要 |
研究2年目まででは、口腔扁平上皮癌(OSCC)の微小環境での細胞外基質の改変と転移の関係を免疫組織化学的に検討したが、統計学的に症例数が少なかったので、最終年度ではさらに症例を追加して、精度の高い解析を行った。 対象として、頸部郭清術を行った扁平上皮癌の全97症例を郭清時に転移のなかった群、転移の認められた群に分け、原発巣とリンパ節に対して、LOX, MT1-MMP(MMP-14)、S100A8及びTIMP-1の局在を免疫組織化学的に観察した。非転移例のリンパ節は原発に近接する区域のリンパ節、転移例の転移によって構造が破壊されているリンパ節では転移リンパ節と同じ区域の転移を含まないリンパ節で検討した。 OSCCの原発部の腫瘍実質、特に浸潤先端部にこれらの因子が発現し、MT1-MMP, S100A8, TIMP-1は周囲の炎症性細胞、線維芽細胞様細胞、樹状細胞などにも高率に発現しており、細胞外基質のリモデリングが腫瘍の浸潤に関与していることを示している。原発腫瘍ではTIMP-1の実質細胞及び間質細胞での発現、LOX, MT1-MMPの実質細胞での発現がリンパ節転移と相関していることが示された。これらの因子はリンパ節転移の予測因子となり得ることが考えられる。S100A8は腫瘍に隣接する線維芽細胞が特に強く発現していることから、腫瘍関連線維芽細胞(CAF)の良いマーカーになることが考えられる。また、リンパ節では非転移例と比較して、転移症例でのリンパ節にmarginal sinus histiocytosisが高頻度に形成され、ここに、LOX、MT1-MMPの陽性マクロファージが有意に増加していた。この所見はLOX、MT1-MMPがOSCCのリンパ節転移の成立に先立って、周辺洞の微小環境の細胞外基質を改変し、SCC細胞が定着しやすい微小環境の構築に関与していることを示唆している。
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