研究課題
歯周病関連細菌Porphyromonas gingivalisは、強力なタンパク質分解酵素であるジンジパインを分泌する。ジンジパインを含めた約30個の外膜タンパク質のC末端側には共通のC-terminal domain(CTD)を有しており、それは外膜への分泌シグナルとなっている。CTD含有タンパク質はIX型分泌機構(T9SS)によって菌体表面に輸送されること、さらに菌体表面に出たこれらのタンパク質はT9SSにより分泌されるPorUプロテアーゼによりCTDが切断されるとともにA-LPS(O多糖は陰性荷電を持つ)に結合すると報告されている。しかしながら、その詳細については不明な点が多い。これまでに、本菌には2種類の組成の異なるO多糖を持つLPSが存在すると報告されており、O-LPS、A-LPSと呼ばれている。CTD含有タンパク質は菌体表面のA-LPSに特異的に結合することから、その生合成機構の解明は重要である。これまでに、トランスポゾン変異法によりA-LPS生合成に関わる複数の遺伝子が同定されている。しかしながら、未同定の遺伝子も存在する可能性があった。そこで、本菌のゲノム情報から未だ解析をしていない14個の糖転移酵素遺伝子に着目し、変異株作製を試みた。その結果、4個の遺伝子については変異株作製ができなかった。残りの10個については変異株作製ができた。そのうち、3個がA-LPS生合成に関わる新規遺伝子であった。1個はLPSがラフ型であったことから、A-LPSおよびO-LPSの両方のO多糖生合成に関わると推測された。残り2個についてはLPSがスムース型であったことから、A-LPSのO多糖生合成に関わると推測された。これまでに得られている知見と今回の結果から、少なくともA-LPSのO多糖生合成には少なくとも6個の遺伝子の関与があると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
歯周病関連細菌Porphyromonas gingivalisは9型分泌装置を持っており、保存されたC末端ドメインを有するタンパク質(CTD含有タンパク質)を分泌する。分泌されたタンパク質は、菌体表面のPorUプロテアーゼ(これも9型分泌装置で菌体表面に分泌されている)により、CTD領域が切断されるとともにA-LPSへ結合される。A-LPSはCTD含有タンパク質を菌体表面にアンカーすることから、その生合成機構の解明は重要である。A-LPSのO多糖の合成については、最初の糖転移酵素としてWbaP、後期の糖転移酵素としてGtfBが関わることを見出していた。しかしながら、それ以外の糖転移酵素については不明であった。そこで、本菌のゲノム情報から、未解析の14個の糖転移酵素遺伝子に着目し、変異株作製を試みた。その結果、PGN_1026、PGN_1651、 PGN_1807、 PGN_2087の変異株は作製できなかった。残りの10個は変異株が作製できた。これらのうち、PGN_0361、 PGN_1240、 PGN_1668変異株は血液寒天培地上で黒色コロニー形成が減弱していた。また、これらの変異株はA-LPSを認識する抗体に全く反応しなかった。したがって、これらはA-LPS生合成に関わることを強く示唆している。PGN_1240変異株のLPSはラフ型を示し、その分子量からGtfBの直前の糖転移酵素であることが示唆された。一方、PGN_0361およびPGN_1668変異株のLPSはスムース型を示した。PGN_0361はPGN_1239のパラログであり、両者を変異するとLPSはラフ型を示した。これらのことから、PGN_0361はWbaPの次に働く糖転移酵素であると考えている。PGN_1668については、A-LPSのO多糖のどこに作用しているかは不明である。
歯周病関連細菌Porphyromonas gingivalisの病原性に関わるA-LPSの構造の詳細を明らかにする為に、A-LPSのO多糖合成に関わる遺伝子の同定を行った。これまでの知見と今回の結果から、A-LPSのO多糖は細胞質内で、WbaP, PGN_0361, PGN_1240, GtfBにより主鎖の構造が構成され、VimFとPGN_1668により側鎖の構造が構成されるのではないかと考えている。次の目的は、A-LPSのO多糖の組成を明らかにすることである。A-LPSを抽出する為に温水フェノール法を使用するのであるが、A-LPSはCTD含有タンパク質と結合しているのでフェノール層に行く為、回収量のロスになっている可能性がある。それを回避する為に、9型分泌機構の欠損株を親株として、LPSを回収する。これまでのところ、O-LPSに特異的な遺伝子は同定されていない。したがって、porK(A-LPS+ O-LPS+), porK PGN_1239 (A-LPS+ O-LPS+), porK wbaP((A-LPS- O-LPS+), porK PGN_0361 (A-LPS- O-LPS+)株を嫌気下で大量培養して集菌しLPSを回収した後、O多糖の組成解析を行う予定である。
物品費として想定していた金額の支出を抑えることができたため。
平成29年度の物品費に未使用額を上乗せした金額で支出を予定している。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (6件) 備考 (3件)
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