研究課題/領域番号 |
16K11451
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
庄子 幹郎 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 助教 (10336175)
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研究分担者 |
橋本 雅仁 鹿児島大学, 理工学域工学系, 教授 (30333537)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 歯周病関連細菌 / リポ多糖 |
研究実績の概要 |
Porphyromonas gingivalisは、歯周病をもたらす最重要細菌として知られている。本菌は、糖非分解性で有る為、タンパク質を分解して栄養源を得ている。本菌の最も強力なタンパク質分解酵素はジンジパインであり、栄養源獲得のみならず、周囲組織への破壊をもたらす病原因子として特に注目されている。ジンジパインは、RgpA, RgpB, Kgpの3つからなり、9型分泌機構により菌体外に分泌される。これらのうちRgpBは、菌体表面でA-LPSに共有結合する。同様に、9型分泌機構の基質であるHBP35, TapA, PepKなどもA-LPSに共有結合し、菌体表面に把持される。したがって、A-LPS生合成機構の全容を解明することは重要である。 本菌の菌体表面には、A-LPSとO-LPSの二種類が存在する。A-LPSのO多糖は陰性荷電を持ち、その点でO-LPSと異なることが知られていた。しかしながら、両LPSのO多糖の生合成に関わる遺伝子の詳細は不明であった。これまでに、トランスポゾン変異法によりGtfB(PGN_1251)がA-LPSとO-LPSの両LPSのO多糖合成に関わることが報告されていた。また、我々は、WbaP(PGN_1896)とWbaQ(PGN_1233)がA-LPS、O-LPSのそれぞれの一番目の糖転移酵素であることを報告していた。しかしながら、それ以外の糖転移酵素の関与については不明であった。 本研究では、ゲノム情報から未だ解析していない14個の糖転移酵素について、その遺伝子変異株作製を試みた。その結果、4個の遺伝子については変異株作製できなかった。残りの10個の変異株解析から、A-LPSとO-LPSにおけるO多糖生合成に関わる遺伝子を見出した。さらに、多重変異株作製により、それぞれのO多糖の生合成の順番についても詳細を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
歯周病関連細菌であるPorphyromonas gingivalisは、9型分泌機構を有し病原タンパク質を菌体外に分泌する。9型分泌機構の基質は、保存されたC末端ドメイン(CTD)を持つことが特徴である。これまでの研究から、9型分泌機構の基質は9型分泌機構で菌体外に分泌された後、PorUプロテアーゼがCTDを切断し、基質をA-LPSに共有結合させると考えられている。A-LPSが欠損すると9型分泌機構の基質は培養上清に行くことから、A-LPSが基質を菌体表面にアンカーさせる役割を持っている。 菌体表面にはA-LPSとO-LPSの二種があり、その生合成は不明な点が多い。そこで、ゲノム解析から、未解析の糖転移酵素をコードする14個の遺伝子について、変異株作製を試み両LPSのO多糖の生合成機構の詳細を調べた。 その結果、A-LPSのO多糖合成は、WbaP(PGN_1896), GtfC(PGN_0361), GtfE(PGN_1240), GtfB(PGN_1251)の順で合成され、その他にもVimF(PGN_1054)およびGtfF(PGN_1668)が必須である。一方、O-LPSのO多糖合成は、WbaQ(PGN_1233), GtfD(PGN_1239), GtfE(PGN_1240), GtfB(PGN_1251)の順で合成されることが示唆された。さらに、GtfDは、大腸菌のラムノース転移酵素であるWbbLの機能的ホモログであることを見出した。GtfCも弱いWbbL様活性を示すことから、両LPSの2番目の糖はラムノースであると考えている。これらの解析は、33277株により行われた。見出された現象が、普遍的であるか否かを調べる為にW83株を用いて調べた。その結果、GtfF以外は33277株と同様の結果となった。故に、両LPSのO多糖生合成機構は普遍性があると示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
歯周病関連細菌Porphyromonas gingivalisの病原性に関わるA-LPSの生合成機構を明らかにする為に、糖転移酵素遺伝子の網羅的解析を行った。その結果、A-LPSのO多糖合成には、少なくとも6つの糖転移酵素が必要であることが分かった。2005年に英国のグループはW50株を用いて、A-LPSの構造はマンノースのホモポリマーであることを報告した。その構造からは、マンノース転移酵素が少なくとも2つあれば合成されると予想されていた。一方、我々の結果はそれとは異なり、A-LPSのO多糖合成には6つの糖転移酵素が必要であること、さらに、2つの糖転移酵素はO-LPSのO多糖合成にも関わることから、構造的には両LPSのO多糖は部分的には似通った構造をしていると考えている。 今後の方策として、A-LPSの構造を解き明かしていく予定である。何故、A-LPSが陰性荷電を持つのかについては、以前に我々が報告したWbp経路の最終産物であるジアセチルグルクロン酸が含まれている為ではないかと考えている。その為に、出来るだけA-LPSの回収量を多くするための工夫をしてA-LPSを精製し、そのO多糖の組成解析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 物品費として想定していた金額の支出を抑えることができたため。 (使用計画) 平成30年度の物品費に未使用額を上乗せした金額で支出を予定している。
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