研究実績の概要 |
難病指定疾患,自己免疫性唾液腺炎(シェーグレン症候群:SS)は,潜在的な患者数を含め相当数の罹患者数がいるにも関わらず,診断基準や治療方針の統一が未だ図れていない現状がある. そこで本研究では,病態の継続的把握の重要性に着目し,病期・病態要因を把握する目的で,SS疑いの口唇腺生検材料343例の腺組織障害の再評価,さらに自己抗体や唾液量を含む臨床データを用いて障害の程度の数値化評価を行った.それを元に臨床データと統計学的に解析した. 結果,唾液分泌量や自己抗体と組織障害の程度に明らかな相関関係が確認された.JPN基準に基づく判定では,SS症例は80例,抗SSA抗体陽性例は59例(74%),組織判定も併せた陽性例は45例(76%)であった.感度は唾液分泌量で最も高いものの(98%),特異度は口唇腺生検と血清検査が極めて高く(98%,95%),組織障害が顕著な例では血清検査陽性率は100%であった.形態学的特徴では,CD4+T細胞の侵入により導管の破壊が始まり,重症化に伴いB細胞優位となり,アポトーシス関連因子やMφ陽性細胞の出現と同時に血清値も高値であった.またリンパ球浸潤巣に近接する腺房では,筋上皮細胞の明らかな減少が確認された.また脂肪変性と腺組織障害に相関関係が確認され,重症化の指標と考えられた. 以上より,病態把握と確定診断に有用な手段として口唇腺生検は高く評価できるが,侵襲を伴うため実際に反復検査は困難である.また,経時的な病態把握には組織障害を反映する血清検査が有益と考える.さらに,採取容易な唾液をラマン分光法で計測し,そこから得られる唾液の分子組成情報に,腺の形態的情報を補う耳下腺エコー検査を併用することでSS診断の有用性が期待される.いずれも非侵襲性で安価かつ検査側の経験や手技の熟練度に依存しないという利点を踏まえ,血清検査との併用による病態診断の向上が期待される.
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