研究課題/領域番号 |
16K11470
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
片瀬 直樹 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 助教 (30566071)
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研究分担者 |
西松 伸一郎 川崎医科大学, 医学部, 准教授 (20222185)
山村 真弘 川崎医科大学, 医学部, 講師 (70299204)
山内 明 川崎医科大学, 医学部, 教授 (80372431)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 頭頸部扁平上皮癌 / 口腔扁平上皮癌 / DKK3 / がん関連遺伝子 / 遺伝子機能解析 |
研究実績の概要 |
申請者はこれまでに頭頸部/口腔扁平上皮癌(HNSCC/OSCC)ではDKK3発現が特異的に高くDKK3発現群は予後不良であること、OSCC由来細胞株でDKK3をノックダウンすると細胞の浸潤や遊走が低下することを報告してきた。さらにOSCC細胞でDKK3を過剰発現させると腫瘍の浸潤、遊走、増殖、in vivoでの腫瘍径がいずれも増加したことから、DKK3はOSCCの発育のキーとなる遺伝子であると考え、その機序を詳細に検討してきた。 平成28年度の計画では、(1)DKK3遺伝子の過剰発現で変動するシグナルの検索と、(2)低分子化合物(阻害剤)によるDKK3を介したシグナルの抑制とその影響の評価を行った。(1)については、これまでの解析でDKK3過剰発現群では細胞の癌化に寄与するcyclin D1、c-mycなどのWnt/beta-cateninシグナルのターゲット遺伝子の発現が増加することが示され、本来はWnt signalの抑制因子とされるDKK3が、逆にWnt signalを逆に活性化しているかのような結果であった。今回reporter assayを行ったところ、Wnt signalの活性化は検出できなかった。一方で、western blottingによる検索ではAkt,c-junのリン酸化の亢進が認められた。ここから、DKK3がPI3K/Aktを介して腫瘍を活性化すると考え、(2)でPI3K/Aktの阻害剤をDKK3過剰発現OSCC細胞に作用させたところ、細胞の増殖、浸潤、遊走が有意に抑制された。 これらの結果から、DKK3がAkt signalを介してHNSCC/OSCC特異的に癌細胞の悪性度を増加させることが明らかになり、DKK3をターゲットとした腫瘍制御に向けた重要な根拠が得られた。これまでの研究成果は英文雑誌に投稿、受理された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画では、平成28年度はDKK3過剰発現系でのシグナルの影響を詳細に検討し、その結果をもとに平成29年度以降にキナーゼ阻害剤などを用いてDKK3を介したシグナルを抑制可能かどうかを検討する予定であった。 DKK3過剰発現細胞での細胞内シグナルへの影響の検索では、DKK3過剰発現OSCC細胞でcyclin D1, c-mycなどの細胞の癌化に関わるWnt/beta-catenin signalのターゲット遺伝子の発現が増加することが明らかとなった。本来DKK3の属するDKK familyはWnt signalの抑制因子として機能するものの、DKK3はこの機能がないとされていたが、結果からはDKK3がWnt inhibitorではなく寧ろWnt activatorとして機能する可能性が考えられた。その検証として、2種類のReporter assayを行なったがいずれの実験でもWnt signalの活性化は検出できなかった。そこで、複数の関連シグナル分子のリン酸化の状態をwestern blottingで検索し、Akt, c-junのリン酸化が亢進することを明らかにした。 これにより当初計画は全て遂行され、平成29年度以降の計画に着手できた。Akt signalの阻害剤をDKK3過剰発現OSCC細胞に作用させると、DKK3過剰発現によって増加した細胞の増殖、浸潤、遊走はすべて有意に低下した。 平成28年度の成果で、DKK3を介した腫瘍の悪性度上昇のメカニズムの一端が明らかとなり、これまでの研究成果と合わせて英文雑誌に発表することができた。以上から、当初の計画以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画よりも進展して研究が進捗しているが、平成29年度以降はさらにin vitroの解析を進めるとともに、将来的なDKk3をターゲットとした癌治療モデル作製を目指し、in vivoでの口腔癌移植モデルの確立を目標とする。 これまでの研究では、DKK3がAktのリン酸化を介してOSCC腫瘍細胞の悪性度を上昇させること、DKK3過剰発現細胞でAktの阻害剤を作用させるとその効果が打ち消されることが示唆されている。このDKK3によるOSCC腫瘍発育増強効果が、直接的作用であるか間接的作用であるかを詳細に検討する。具体的には、DKK3に対するモノクローナル抗体によってもAkt阻害剤と同様の効果が発揮されるか、また抗DKK3抗体とAkt阻害剤を併用した場合の効果を評価する。 口腔癌移植モデルについては、所属の移籍などもあり新たに研究体制を整備する必要が生じている。すでに移植モデルを確立している研究者のグループとの共同研究も視野に入れ、検討をすすめる。また、DKK3をstableにノックダウンする系をすでに確立し機能解析が完了している。こちらの実験系にもこれまでの成果を生かして解析を追加し、早期の論文作成を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
科研費を長崎大学共同利用施設への機材使用料の支払いに充当していたが、引き落としが予定よりも少なかったため残余が生じた。研究分担者が分担金からの支払いを行わなかったため余剰が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度以降の物品購入費に充当する。
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