研究実績の概要 |
前年度までにエメチンによる悪心誘発作用の濃度依存性を調べた実験結果から、実際の行動実験においてエメチン(1.0 mM, 10ml/body weight, i.p.)によってラットに悪心を確実に誘発できることを確定した。そこで、エメチンの腹腔内投与を無条件刺激として、また0.1%サッカリンナトリウム溶液(甘味)を条件刺激として用い、条件付け味覚嫌悪(CTA:conditioned taste aversion)を解析する行動実験を行った。エメチンによる悪心誘発の神経機序を明らかにするために、カプサイシンを用いて両側迷走神経求心路切除術を施したラット(VX群)と電気メス焼灼を用いて最後野切除術を施したラット(APX群)を作成してCAT実験を行いデータを解析してコントロール群と比較した。その結果、VX群はコントロール群と同程度のCTAを獲得し、一方、APX群はCTAを獲得しなかった。この結果からエメチン誘発の悪心は迷走神経求心性情報が無くても起こり、最後野が無い場合には悪心誘発は起こらないことが明らかとなった。すなわち、エメチンは血流を介して延髄最後野ニューロンに作用して悪心を誘発していることが示唆された。トラネキサム酸の腹腔内大量投与による悪心も同様の神経機序によることを示唆するデータを得たが、これについては更にデータ数を増やして検討を重ねる予定である。エメチン、シスプラチン、塩化リチウム投与によって最後野、孤束核、扁桃体中心核、床核の各部にc-Fosタンパクの発現を認めたが、サッカリンの味覚刺激ではこれらのいずれの脳部位においてもc-Fosタンパク発現は同定できなかった。このことから、サッカリンに対するCATを獲得してサッカリンの甘味と内臓不快感の連合学習が成立しても、この嫌悪記憶の想起には悪心を感じる神経回路は関与していない可能性が示唆された。
|