近年、歯周病菌Porphyromonas gingivalis(Pg)成分であるLPSがアルツハイマー認知症(AD)患者の脳内検出ならびに歯周病重症度と認知症重症度との正相関が報告された。そのため歯周病が認知症のリスク因子として注目されているが、メカニズムには不明な点が多い。本研究はPgLPSにより脳内ならびに全身炎症の変動について検討を行った。その結果、PgLPSを全身投与した野生型中年マウスでは学習・記憶脳低下、脳におけるミクログリアの依存性脳炎症ならびに海馬ニューロン内Abeta蓄積というAD様病態は認められたが、PgLPSを投与したカテプシン(Cat)B欠損した中年マウスではAD病態は生じなかった。また、PgLPSで刺激したミクログリア培養上清を添加した初代培養ニューロンにおいてCatB発現が増大し、CatBに依存したAbeta蓄積が認められた。一方、PgLPS全身投与した野生型マウスの脾臓に認められた樹状細胞ならびにTh17細胞の有意な増加に伴う脾臓肥大はCatSを欠損したマウスに認められなかった。さらに、PgLPSで刺激した樹状細胞におけるプロテアーゼ活性化受容体(PAR)2を介したIL-6産生はCD4T細胞からTh17細胞へ分化を促進し、IL-6産生はCatSの特異的阻害剤により有意に抑制された。 本研究は歯周病菌の菌体成分により(1)中年マウスにおいてAD様病態が誘発されること(2)CatBが誘発されるAD様病態の原因酵素となること(3)CatSが炎症増幅の原因酵素となることを明らかにした。本研究成果は口腔ケアの認知症予防における重要性を広く発信するに加え、CatBならびにCatSの特異的阻害剤は認知症の発症ならびに進行を阻む可能性が示され、今後の展開が期待される。
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