研究課題/領域番号 |
16K11479
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
高 靖 九州大学, 歯学研究院, 助教 (40585882)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | IRS / PRIP / インスリンシグナル経路 / Akt |
研究実績の概要 |
本研究では、申請者の研究室で見出したマルチドメイン蛋白質 PRIP (phospholipase C-related but catalytically inactive protein) のインスリンシグナル伝達経路における役割の解明を目指した。 PRIP-ノックアウト (KO) マウスを用いて、糖負荷試験やインスリン負荷試験などを含めてインスリンシグナリングを多面的に検討した。普通食飼育のKO マウスではグルコース負荷時のインスリン分泌の亢進が観察されたが、インスリン負荷試験では野生型とKOマウスの間に差がなかった。KO マウスから調製した脂肪組織の器官培養では、インスリン刺激によるインスリン受容体 (IR) ならびに Akt のリン酸化レベルが低下した。個体レベルでも同様に、KO マウスの脂肪組織でのみインスリン刺激による IR と Akt のリン酸化レベルが低下していた。一方、肝臓と骨格筋において変化が認められなかった。インスリン受容体基質 (IRS) のセリン/スレオニンリン酸化は、インスリンシグナル経路の負の制御に関わる主要な機構である。野生型および KO マウス由来の MEF 細胞を用いて実験を行ったところ、KO マウス由来のMEFにおいてIRSのセリン/スレオニンリン酸化が亢進していた。さらに、in situ Proximity Ligation Assay (PLA)により、野生型マウス由来のMEFでIRS1とProtein Phosphotase 2A (PP2A)の結合が観察されたが、この結合のPLAシグナルがKOマウスのMEFでは顕著に減少したことがわかった。 以上の結果から、PRIP がIRS-1のセリン/スレオニンリン酸化を調節することにより、脂肪細胞におけるインスリンシグナルの抑制機構に関わり、インスリンシグナル経路を制御していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画に書いてある通りに実験は進行している。本年度の成果は本研究における仮定を肯定するものであり、順調に進展していると言える。 インスリンシグナル経路に関連する分子のリン酸化制御に PRIP が関わっていることが分かったが、その調節の分子メカニズムはまだ不明である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きPRIP が調節する伝達分子を明確にする。各アッセイ系において種々の PRIP 変異体の導入と予想される標的分子の発現抑制を様々に組み合わせてインスリンシグナルへの影響を調べ、インスリンシグナル経路の抑制機構に関する分子メカニズムを明らかにすることを目指す。 重点的に実行する実験:(1)PRIP と各標的分子(IRSや IR など)及び関連分子の相互結合;(2)PRIP による、標的分子と各自の調節分子間相互作用へ影響;(3)IR や IRS のセリンリン酸化と脱リン酸化;(4)IR の細胞膜への発現やトラフィックについて;(5)糖代謝、脂肪酸代謝に重要な分子、例えば FOXO1、SREBP1 等のメッセンジャー RNA の量やタンパク質の発現量の比較
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次年度使用額が生じた理由 |
必要な試薬や抗体を購入する際に、ちょうど価額の割引期間だったので定額より安い価額で購入でき、予算を下回った。
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次年度使用額の使用計画 |
引き続きPRIP が調節する伝達分子を明確にする。インスリンシグナル経路の抑制機構に関する分子メカニズムを明らかにすることを目指す。調べる方法は同じなので消耗品のほとんどを占める試薬類は初年度と同程度必要となる。また得られた成果を学会及び論文として発表するための旅費及び出版費(その他)を使用する。
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