研究課題/領域番号 |
16K11483
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研究機関 | 九州歯科大学 |
研究代表者 |
小野 堅太郎 九州歯科大学, 歯学部, 教授 (40316154)
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研究分担者 |
人見 涼露 九州歯科大学, 歯学部, 助教 (70548924)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 口内炎疼痛 / 5-FU / シスプラチン / TRPV1 / TRPA1 / TRPV4 / 細菌感染 / 三叉神経節ニューロン |
研究実績の概要 |
癌患者における口内炎は広範囲で深い潰瘍性口内炎を発症し、食事や会話ができないほどの強烈な痛みを生じる。これはQOL低下や栄養不良の原因となることはもちろん、死への恐怖を感じているガン患者に生きることへの絶望感を引き起こす。結果的に、化学療法の開始の遅れ、減薬、中断を強いることになり、癌患者の生存率を著しく下げている。ゆえに、抗癌薬投与後の口内炎疼痛の発症メカニズムの解明と新規鎮痛法の開発は急務とされている。 本研究では2つの抗癌薬、5-FUとシスプラチン、をあらかじめ投与したラットに酢酸により強制的に口内炎を発症させたモデルを使用する。平成28年度の実績として、5-FU投与口内炎モデルの病態ならびに関連疼痛分子の同定に成功した。5-FUは抗癌作用と同時に白血球減少を引き起こすため、口内炎部の細菌感染に対して無防備な状態となってしまう。そのため、過剰な口腔内細菌の感染により口内炎は増悪し、治癒の遅延がみられた。ゆえに抗菌薬の前投与は口内炎の症状、口内炎疼痛の緩和に有効であった。炎症部位でのプロスタグランジンE2の産生はTRPV1チャネルを常に活性化させ自発痛の原因となっていた。一方、接触痛(物が触った時の痛み)はプロスタグランジンE2の産生とは独立しており、リポポリサッカライドによる直接的もしくはホルミル化メチオニン受容体FPR1受容体を介した間接的作用によるTRPA1チャネルの機械感受性感作が原因となっていた。リポポリサッカライド阻害薬であるポリミキシンBの粘膜塗布は両疼痛発症メカニズムを同時に抑制することから、臨床での応用が期待された。この研究結果は、痛みの専門学術雑誌であるPAINに掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
5-FUによる口内炎疼痛増悪メカニズムの解明が完了したため、現在はシスプラチンによる増悪メカニズムの解明を進めている。シスプラチンは5-FUと同じく白血球減少を引き起こす重篤な副作用があるが、この薬物自体でマクロファージが活性化し、酸化ストレスによる機械痛覚過敏が引き起こされると報告されている。5-FU自体は疼痛閾値に何ら影響を及ぼさなかったため、非常に単純な実験計画で解析を行うことができたが、シスプラチン投与自体にて疼痛閾値の変化や抗菌作用が発揮されてしまい、予想外の結果が出ている。よって、まずシスプラチン自体による口腔粘膜の疼痛変化のメカニズムを明らかにし、口内炎発症による増悪についての検討を行うように実験計画を変更している。 また、コントロールとして使用している抗癌薬投与なしの酢酸処理口内炎モデルの疼痛メカニズムの解明を行っているが、5-FU酢酸処理口内炎モデルとは全く異なるチャネルメカニズムで疼痛が引き起こされていることが分かった。この違いにはエンドセリンが関係している可能性があり、現在詳細を検討中である。さらには、口内炎は酸刺激だけではなく咬傷など機械的な刺激によっても発症するため、外傷性口内炎モデルの作製も行った。このモデルでは、潰瘍深部に膿瘍ができるという特徴があり、非感染性に疼痛が生じていることを明らかにしている。
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今後の研究の推進方策 |
シスプラチン投与口内炎モデルにおける疼痛発症メカニズムに関しては、まずシスプラチン自体による疼痛発症メカニズムを明らかにし、口内炎発症による疼痛増悪について検討する。これらの結果について、論文として早々に発表する予定である。 研究計画書にある唾液解析や三叉神経節ニューロンへの直接機械刺激によるパッチクランプ電流記録については本年度の予定課題であり、解析準備を整えている。唾液採取は、過去の我々の方法に従い(Ono et al., Arch Oral Biol, 2012)催唾剤ピロカルピンを投与して分泌された唾液の量とpHを測定する。唾液は-80℃で保存し、後日、炎症性サイトカイン(IL-1β、IL-6、IL-10、TNF-α)をELISA法にて測定する。パッチクランプ実験では、粘膜に投与したフルオロゴールドに陽性のニューロンから記録を行う。電圧固定下にて、先端をポリッシュしたガラスを装着した機械刺激装置(Kleindiek)にて細胞を直接機械刺激し、誘発された電流量を記録する。記録後に、TRPV1-4それぞれのアンタゴニストおよびルセニウムレッドを投与して、どのチャネル由来の電流であったかを確認する。 明らかとなってきている種々の口内炎において、必ずしも共通の疼痛発症メカニズムを介していないことが分かってきた。しかしながら、いくつかの関連する共通因子があることもわかってきており、それらを標的とした新規鎮痛法のアイディアを絞り出していきたい。
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