研究課題/領域番号 |
16K11485
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
毛塚 雄一郎 岩手医科大学, 薬学部, 助教 (50397163)
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研究分担者 |
吉田 康夫 愛知学院大学, 歯学部, 准教授 (10315096)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 短鎖脂肪酸 / Porphyromonas gingivalis / 酪酸 / 歯周病 / 酵素構造 / X線結晶構造解析 |
研究実績の概要 |
歯周病患者の歯周ポケットで高濃度に検出される短鎖脂肪酸や揮発性硫化物は、悪臭と毒性を併せ持つ有臭有毒物質で、歯周病の進行や口臭の発生に深く関与している。 代表的な歯周病原細菌であるPorphyromonas gingivalisは多量の短鎖脂肪酸を培養上清中に放出する。Pgn0723は、短鎖脂肪酸合成に関与し、succinyl-CoAとNAD(P)H存在下でsuccinyl semialdehydeを生成するアシルCoA還元酵素であることを研究分担者および代表者らが明らかとしている(Yoshida et al., 2016)。この酵素遺伝子欠損株は、培養上清中への酪酸、イソ酪酸およびイソ吉草酸の産生が顕著に低下するだけでなく、野生型に比べ高い生育阻害が起こることから、P. gingivalisに対する阻害剤は、この細菌特異的な抗菌薬や酪酸に起因する口臭の予防薬になり得る可能性を秘めている。今年度の研究では、Pgn0723の結晶化条件の探索を行い、最適条件を決定した。さらに、X線結晶構造解析により、酵素単独の構造を2.5 Å分解能で解析した。その結果、Pgn0723は二量体が三量体化した類縁酵素では見られない新規な六量体構造を取っていた。また、基質やNAD(P)Hの結合に関与すると考えられる部位は部分的にディスオーダーしており、この領域は高い柔軟性を持つことが考えられた。Pgn0723の推定のsuccinyl基結合部位にはLeu408およびそれに前後するアミノ酸残基が位置していた。このことから、Pgn0723は基質の結合により構造変化を伴う反応機構を持つことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
P. gingivalisの酪酸合成に関与する酵素を標的とした化合物スクリーニングを実施するにあたり、酵素の基本的な性質および構造情報を収集することは必須である。当初スクリーニングの標的の第一候補としていた酵素の解析に多少時間を要しているものの、今後実施すべき実験は明確となっており、それに向けて着実に準備を進めている。並行して、別の候補であるPgn0723の構造解析は研究実績の概要に記述した通り、研究が順調に進展した。
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今後の研究の推進方策 |
酪酸合成酵素に対する研究については、第一候補としていた酵素の酵素学的および構造解析を進め、基礎的な情報を収集する。当初、この酵素は(1)単独で働く、(2)別のタンパク質と共役して働くという2つの可能性を考えていた。今年度の実験により(1)の可能性はほぼ否定され、現在(2)を想定して実験に取り組んでいるため、これを継続して実施する。なお、共役すると考えられるタンパク質群は個別に調製する系を確立している。これらの情報を踏まえ、酪酸産生に対する寄与の他、酵素の収量や安定性、アッセイの簡便さやコストなどを総合的に判断して化合物スクリーニングを実施する対象を決定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたものの、今年度の配分額の2%相当であり、概ね予定通り使用している。ただし、過去に科学研究費で購入した分光光度計の修理が必要となり、それに約10万円の支出があったため、内訳には変更が生じている。
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次年度使用額の使用計画 |
物品費として、実験に必要な試薬、プラスチック消耗品および器具を購入する。また、実験補助者の雇入れのための人件費、および分担者との研究打ち合わせや学会発表等のための旅費も必要となる。課題申請時には計上していなかったが、タンパク質試料の会合状態の確認および精製に必須となる現有のゲルろ過カラムの劣化が認められているため、実験に支障がある場合は、新たに購入する必要がある。その場合、当初の計画を変更して対応する。
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