研究実績の概要 |
本研究では、口腔内の有臭有毒物質(短鎖脂肪酸と揮発性硫化物)に着眼し、それらの産生源となる歯周病原細菌由来酵素の解析を進めている。 Porphyromonas gingivalisにおいて、アミノ酸から短鎖脂肪酸の一つである酢酸を産生する経路の最終段階には、リン酸トランスアセチラーゼ(Pta)と酢酸キナーゼ(Ack)が関与する。Ptaがアセチル-CoAからアセチルリン酸を生成し、次いでAckがアセチルリン酸から酢酸を生成する。この時、リン酸基は、Ackによってアデノシン二リン酸に付加され、アデノシン三リン酸(ATP)も合成される。遺伝学的手法を用いた実験の結果、これら酵素遺伝子がP. gingivalisの生育に必須であることを強く示唆するデータを得た。さらに、2種類の酵素の結晶構造を決定した。Ptaはホモ二量体で、アセチル-CoAとの共結晶化の結果、各サブユニットに一分子のアセチル-CoAが結合した複合体構造の解析に成功した。Ackもホモ二量体を形成していた。非対称単位中の4サブユニットの構造を比較すると、触媒部位と考えられるクレフトの開閉の度合いに大きさ差が見られた。Ackの触媒反応には約22 Åに及ぶ構造変化が伴うことが考えられた。これらの構造をProtein Data Bankへ登録した(ID Nos. 6IOW, 6IOX, 6IOY)。 口臭の主要な原因物質であるメチルメルカプタンは、メチオニンγ-リアーゼ(MGL)により産生される。新規阻害剤候補化合物のFusobacterium nucleatum MGLに対する阻害活性の濃度依存性を測定した。その結果、50%阻害濃度(IC50)は0.32 μM であり、既知阻害剤であるミルシノン酸Bに比べ、17倍の低値を示した。
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