研究課題/領域番号 |
16K11486
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研究機関 | 奥羽大学 |
研究代表者 |
鈴木 恵子 奥羽大学, 歯学部, 教授 (50119187)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 骨代謝疾患治療薬 / ビスホスホネート / アントシアニン / イメージング / 抗酸化作用 |
研究実績の概要 |
本研究で骨代謝疾患治療薬としての有効性を検討している新規ビスホスホネートMPMBPと植物由来成分であるdelphinidinはいずれも強い抗酸化作用を有するという共通点がある。一方、骨粗鬆症や歯周病での炎症性骨破壊などでは、酸化ストレスにより惹起される病態であることが解明されつつある。本年度はin vitro(細胞培養)およびin vivo(RANKL誘導性およびOVXによる骨粗鬆症モデルマウス)両面から基礎的研究を行った。MPMBPとdelphinidinは、破骨細胞前駆細胞とMC3T3-E1細胞でNFkBの核内移行を抑制すること、そのため、骨吸収作用を抑制するだけでなく、NFkBで分化が阻害される骨芽細胞に働きかけることで骨形成を促進することが示された。 また、RANKL誘導性およびOVX誘導性骨粗鬆症モデルマウスにMPMBPまたはdelphinidinを投与することで骨量増加が認められた骨試料について、X線マイクロCTおよび蛍光2重ラベルにより骨形態計測を行った結果、破骨細胞数、吸収面積が減少する一方、骨芽細胞数と骨形成速度が有意に上昇することが示され、骨代謝回転のアンカップリングにより骨形成優位となっていることが示された。 さらに、正常新生仔ラットにMPMBPを投与し、窒素含有ビスホスホネートであるzoledronateとの比較を行ったところ、両薬物とも、脛骨近心端において用量依存的な骨量増加作用を示した。一方、zoledronate投与では長管骨伸長抑制および歯牙萌出遅延が観察されたのに対し、MPMBPではこれらの有害作用は軽微であった。zoledronateは強い骨吸収抑制作用により骨リモデリングを抑制するが、MPMBPでは骨吸収抑制が中等度であり、加えて骨形成促進作用があるために、幼若動物においても有効かつ安全な骨代謝疾患治療薬となる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超高齢社会である我が国において、要介護の大きな原因となっているロコモティブシンドロームを効果的に予防・治療するために、炎症性骨破壊の発症メカニズム解明と治療薬開発を目的として研究を行っている。破骨細胞は、造血幹細胞に由来し、活性調節因子およびその受容体を免疫・炎症に関与するその他の造血系細胞と共有するため,炎症性骨破壊の病態は極めて複雑である。複数の細胞種が相互に関連する病的骨破壊機構を解明するために、生きたままの動物でバイオイメージング手法を用いて研究を行った結果、全身投与した破骨細胞前駆細胞が、起炎物質投与3日後に炎症部位に観察され、5日後には、同部位に骨破壊が起こることが示された。イメージング実験終了後に採取した頭蓋冠組織を解析した結果、ドナー由来の細胞が炎症局所でTRAP陽性細胞に分化して吸収窩が形成されることが示された。すなわち、全身循環中に存在する破骨細胞前駆細胞が炎症部位で産生される何らかの分子からの情報を感知して、同部位に遊走して重篤な骨破壊を惹き起こすと考えられる。 さらに開発中の新規ビスホスホネートMPMBPを骨破壊モデルマウスに投与したところ、破骨細胞前駆細胞の遊走および骨破壊反応が完全に抑制されていた。この実験で治療効果が確認された骨試料について、X線マイクロCTおよび蛍光2重ラベルにより骨形態計測を行ったところ、MPMBPやdelphinidinを投与した動物では、骨吸収が抑制されている状態でも骨形成促進が観察されることから、骨代謝回転のアンカップリングが起きていることが示された。これらの結果から、強い抗酸化作用をもつMPMBPやdelphinidinは、窒素含有ビスホスホネートとは異なり、顎骨壊死や非定型大腿骨折などが起こりにくい骨代謝疾患治療薬として使用できる可能性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
開発中の新規ビスホスホネートについて、培養骨芽細胞様細胞および頭蓋冠器官培養を用いた研究を行ったところ、骨吸収を抑制する作用だけでなく、他のビスホスホネートには見られない骨形成促進作用および抗炎症作用を有することが確認された。 そこで、骨代謝疾患治療薬として有効であり、かつ顎骨壊死などの副作用が少ない治療薬としての臨床応用を目指して、以下の実験系を使用して研究を継続する。 1)今までの研究から得られた成果に基づき、骨欠損および実験的歯周炎モデル動物を用いてin vivo imagingを行う。これにより炎症局所および骨破壊部位への破骨前駆細胞の移動を制御するメカニズム、さらに炎症性サイトカイン産生細胞による破骨細胞活性調節メカニズムについて検討する。 2)抗酸化作用をもつ新規ビスホスホネートおよびdelphinidinを骨破壊疾患モデル動物に投与して、その治療効果を評価すると共に病的骨破壊メカニズムの各段階における詳細な検証を行う。この実験は同一動物を生きたままの状態で経時的に観察するin vivo imagingの手法 (顎骨・歯槽骨に取り込まれたOsteoSenseTMが5週間後まで検出できることは確認済)を用いることにより初めて可能となるものである。 3)上の実験で骨量増加作用が確認された骨サンプルについて、非脱灰切片を作製し、蛍光二重標識から骨代謝の動的パラメーターの計測を行うとともに、破骨細胞・骨芽細胞の細胞形態、軟骨細胞および脂肪細胞の分化・成熟度を観察して、酸化ストレスによる組織障害の修復効果について検討する。さらにX線回折装置を用いたイメージングから、アパタイト配向性を測定して、骨質改善や骨強度増加がみられるかどうかについて検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究遂行に必要な消耗品を購入する。
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