研究課題/領域番号 |
16K11488
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
中村 史朗 昭和大学, 歯学部, 准教授 (60384187)
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研究分担者 |
井上 富雄 昭和大学, 歯学部, 教授 (70184760)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 臨界期 / 顎運動 / 三叉神経運動ニューロン / シナプス伝達 / グルタミン酸受容体 |
研究実績の概要 |
咀嚼機能の獲得には、それ以降では獲得が著しく困難になる時期、すなわち「臨界期」が存在する。しかし咀嚼の臨界期がいつ、どのようなタイミングで決定されるのか、そのメカニズムは未だ不明である。これまで、摂食行動の臨界期の決定には末梢組織の変化だけでなく、顎運動を制御する脳神経機構が関わるとされてきた。そこで本研究では、生後発達期に顎筋支配神経運動ニューロンに発現するグルタミン酸受容体サブユニットを同定・機能解析するとともに、遺伝子改変動物と疾患モデル動物を用いてグルタミン酸受容体の発現と摂食行動の変化を解析することで、摂食行動の臨界期制御におけるグルタミン酸受容体、とくにNMDA型受容体の役割を解明することを目的とした。 本年度は、臨界期を含む生後発達期のラット閉口筋支配運動ニューロンに誘発されるAMPA型およびNMDA型グルタミン酸受容体を介した興奮性微小シナプス後電流(mEPSC)の生後発育変化を解析した。実験には生後2~5、9~12、14~17日齢のWistar系ラットを用いた。麻酔下にて脳幹スライス標本を作成後、咬筋運動ニューロンからホールセルパッチクランプ記録を行った。AMPA型mEPSCは膜電位を-60 mVに保持した状態で、NMDA型mEPSCは膜電位を+40 mVに保持した状態でそれぞれ記録した。AMPA型mEPSCの振幅と発生頻度は、生後発育に伴い増加する傾向にあったが各日齢群で差はみられなかった。一方、NMDA型mEPSCの振幅と発生頻度は、2~5日齢のほうが14~17日齢よりも高い値を示した。以上の結果から、ラット咬筋運動ニューロンへの興奮性シナプス入力の性質が生後発育とともに変化すること、またグルタミン酸受容体の種類によって発達様式が異なることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
臨界期の決定に寄与するグルタミン酸受容体、とくにNMDA型受容体を介した興奮性シナプス伝達の役割を解明するため、生後発達期に発現するNMDA型受容体サブユニットの同定と機能解析を平成28年度の研究計画とした。まず、NMDA型受容体を流れるシナプス電流の性質が、臨界期を含む生後発達期でどのように変化するのかを明らかにする必要があるため、生後発達期ラット閉口筋支配運動ニューロンに誘発されるNMDA型受容体を介した微小シナプス後電流(mEPSC)の振幅、頻度、減衰時間、上昇時間、電流密度の各パラメーターについて解析を行った。その結果、AMPA型mEPSCとは異なり、NMDA型mEPSCの振幅と発生頻度は、生後初期(2~5日齢)の方が生後後期(14~17日齢)よりも極めて高い値を示した。したがって、生後初期にはNMDA型受容体を介したシナプス伝達が重要な役割を果たしている可能性が明らかとなった。このように、申請時に計画したNMDA型受容体サブユニットの同定にはまだ至っていないが、NMDA型受容体を介したシナプス伝達の臨界期決定における重要性が明らかとなった点で、計画は順調に遂行されているといえる。今後引き続き、臨界期制御に関与するNMDA型受容体サブユニットの種類や性質の探索を行っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究成果から、生後初期にはNMDA型受容体を介したシナプス伝達が重要な役割を果たしている可能性が明らかとなった。しかし、NMDA型受容体がどのようなサブユニットで構成されているのか、それらのサブユニットの臨界期制御への関連については未だ不明である。また、閉口筋支配運動ニューロンへグルタミン酸性の出力を送るニューロン群の存在領域などについても不明な点が多い。そこで平成29年度では、①野生型および遺伝子改変動物の生後発達期に発現するNMDA型受容体サブユニットの同定および機能解析、を行うとともに、②閉口筋支配運動ニューロンへグルタミン酸性出力を送るプレモーターニューロンの電気生理学的性質および形態学的性質の検索を行うことを計画する。これらを明らかにすることにより、どこの領域からの入力が必要で、さらにどの種類のNMDA型受容体が摂食行動の臨界期制御に重要な役割を果たすのかを解明できると想定される。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験動物に関して、他研究プロジェクトで購入した実験動物の余剰分を使用することができ、実験動物の購入・維持にかかる費用が減らすことができたため、実験動物に係る費用の予算額より低い支出となった。また、平成28年度には、NMDA型受容体サブユニットの免疫組織化学およびin situ hybridization染色を行うことができなかったため、そのために算出していた費用分が残った。バルブ式潅流システムに関しては、既存のシステムを修理して用いることが可能となったため、購入を見送った。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度では、昨年度に見送られたNMDA型受容体サブユニットの免疫組織化学・in situ hybridization染色を行うため、平成28年度に算定されている予算を用いてその費用に充てる。また、バルブ式潅流システムの購入のかわりに、より微量で正確に投与量をコントロールできるイオントフォレーシス装置を購入する。
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