研究課題
哺乳類の摂食行動は生後、吸啜から咀嚼へと大きく変化する。この「食べる」機能の獲得は、生命の維持、正常な成長・発育にとって極めて重要である。これまでこの時期には、歯や顎口腔領域等の末梢性組織が構造・機能変化し、それに伴い摂食行動の転換が起こるとされてきたが、この時期に脳神経機構も変わる可能性が報告されている。そこで我々は、顎運動を制御する神経回路のうち顎筋を支配する運動ニューロンへのシナプス伝達にスポットを当て、咀嚼獲得期にこれらの運動ニューロンに発現するグルタミン酸受容体機能がどのように変わるのかを電気生理学手法を用いて解析することを目的とし、摂食行動の臨界期制御におけるグルタミン酸受容体の役割をニューロンレベルから解明することを目指した。生後2~5、9~12、14~17日齢の閉口筋および開口筋運動ニューロンから興奮性微小シナプス後電流(mEPSC)を記録したところ、NMDA型mEPSCの振幅と発生頻度は、咬筋運動ニューロンで2~5日齢のほうが14~17日齢よりも高い値を示したのに対し、顎二腹筋運動ニューロンでは生後発達期を通して変化はみられなかった。拮抗薬を用いた実験から、生後2~5日齢咬筋運動ニューロンで豊富にみられたNMDA型mEPSCはGluN2AとGluN2Bサブユニットを有するNMDA型受容体を介することが明らかとなった。さらに、閉口筋・開口筋運動ニューロンに出力をおくるプレモーターニューロンが存在する三叉神経上核を電気刺激して誘発されるEPSCを調べたところ、mEPSCで得られた結果と同様の結果が得られた。以上の結果から、ラット咬筋運動ニューロンへの興奮性シナプス入力の生後発育様式は機能の異なる運動ニューロン間で異なること、生後初期のラット咬筋運動ニューロンへのNMDA型受容体グルタミン酸性入力にはGluN2AとGluN2Bが関与することが示唆された。
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