研究課題/領域番号 |
16K11491
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
藤田 智史 日本大学, 歯学部, 准教授 (00386096)
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研究分担者 |
崔 翼龍 国立研究開発法人理化学研究所, ライフサイエンス技術基盤研究センター, ユニットリーダー (60312229) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | GCaMP6s / カルシウムイメージング / 2光子励起顕微鏡 / 温度感覚 / 島皮質 |
研究実績の概要 |
神経障害は痛覚の異常を誘発し、例えば通常だと熱い、冷たいと感じるような非侵害刺激に対して痛みと感じるアロディニア等の症状が認められる。過去の神経障害性疼痛モデルを用いた検討では、温度刺激に対する閾値が低下し、アロディニアが再現されていると考えられているが、アロディニア発症時にその処理がどのように変調しているか不明である。また、温度情報を処理する脳部位は未だはっきりとはしていない。情報処理部位の変調を明らかにする前段階として、顎顔面領域の正常な温度情報処理部位が大脳皮質のどこに存在するのかを明らかにする目的で検討を行った。実験にはGCaMP6sを神経細胞に発現した遺伝子改変マウスを用いて広い視野、および個々のニューロンの活動まで観察できる二光子励起顕微鏡によるカルシウムイメージングを行った。広い視野におけるGCaMP6sを用いたイメージングはカルシウムイメージングの特徴とGCaMP6sの特性から、温度刺激のようなゆっくりとした刺激に対する応答を捉えるのに最適と予想したが、実際には自発的なカルシウムシグナルのゆっくりとした大きな揺らぎが観察され、はっきりとした応答部位の検出に至らなかった。これに対応するため、舌への電気刺激に応答する部位が島皮質の吻側部、尾側部に分かれて存在することを、膜電位感受性色素を用いた光学計測法で確認し、これらの応答部位に対して2光子励起顕微鏡によるニューロンレベルでの検索を行った。その結果、島皮質の尾側の一部ニューロンは温冷刺激時に一過性のカルシウムの上昇を示した。脊髄のニューロンでは熱刺激には持続的な応答を示し、一方で冷刺激には温度変化時の一過性の応答を示すが報告されている(Ran et al., 2016)。しかしながら、島皮質尾側部において持続的な応答を示すニューロンは今のところ極めて少数であり、今後、他の領域も含めた検討が必要と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
カルシウムイメージングは活動電位が誘発される応答の中心部位を観察でき、膜電位感受性色素による光学計測法と比較してS/N比が高いという特徴がある。また、GCaMP6sは従来のカルシウム指示薬やタンパクと比較してシグナルが大きく、かつ一度上昇したシグナルは活動終了後もシグナル減衰にタイムラグがあるという特徴を有している。温度刺激は電気刺激等と異なり、刺激には時間がかかり、繰り返し刺激を行う際に時間的な揺らぎを含まざるを得ない。高シグナル、持続時間が長いというGCaMP6sの特徴は温度刺激におけるイメージング実験の難点を回避し、マクロ的視野におけるイメージングを可能にすると予想し、検討を行った。しかしながら、ミリ秒単位のイメージングでは問題とならないような秒単位の大きなカルシウムシグナルの揺らぎが視野全体に認められ、温度刺激受容部位と考えられるようなはっきりとしたシグナルは観察できなった。そこで、フラビン蛍光や血流イメージング、膜電位感受性色素によるマクロ的視野における観察も行い、一部の実験で広範囲にわたる弱いシグナル上昇を認めた。温度刺激によって応答を示す部位が内在していると考えられるが、はっきりとした応答中心部位を明らかにするには至らなかった。電気刺激を舌に行った時のマッピングを行い、その応答部位周辺で温度変化に応答するニューロンを2光子励起顕微鏡によって検索し、一部のニューロンで一過性のカルシウムシグナル変化が観察できたが、脊髄のニューロンで観察されるような持続的応答を示すニューロンは少数であり、顎顔面領域の温度情報処理を行う脳領域の同定には、他の領域における温度受容部位の検索が必要と考えられ、モデルにおける検討を遅らさざるを得ない。また、2光子励起顕微鏡の使用頻度の高さからレーザー部の劣化によるメインテナンス期間を要している。これらの結果、やや計画から遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
舌に電気刺激を行った時に応答が誘発される島皮質に対して2光子励起顕微鏡による観察を行い、温度刺激に応答するニューロンの検索を行った。その結果、一部のニューロンに一過性のカルシウムシグナルの輝度変化を認めたものの、応答部位の確証には至っていない。また、舌に対して電気刺激を行うのではなく、圧縮空気の吹き付けを行ったところ、電気刺激によって応答を認める領域より背側に位置する体性感覚野に強い応答が光学計測法で認められた。このことは、舌の感覚情報処理には、電気刺激によって認められる部位だけでなく、さらに島皮質背側も重要な役割を果たしている可能性を示唆している。空気の吹き付けは、単に触刺激となるだけでなく、空気の流れによる冷刺激を内在している可能性がある。モデルによる検討の前に、正常な状態における情報処理基盤を確立することが肝要と考えられる。そこで、これまでの計画では島皮質に着目して行ってきたが、それに加えて、検索範囲を背側の体性感覚野に広げる。また、冷刺激となるメントール等の化学物質の適用も併用し、検討する速度を上げる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験機器のメインテナンス期間があったため、実験を一時的に中断せざるを得なく、その間は消耗品を使用していない。また、当初予定していたより物品費が安く抑えられたため余剰分が発生した。次年度使用額と平成30年度助成金を合わせて、これまで行ってきた温度刺激装置による検討に加えて、温冷刺激に対する応答をより効率よく観察できるように、メントール等の化学物質を併用し記録を行う。
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