研究課題
本研究ではArl4cの口腔癌をはじめとする扁平上皮癌の腫瘍形成における役割の解明とArl4cを標的とした口腔癌の新規分子標的治療法の確立を目的としている。平成28年度は以下の研究結果を得た。①ヒト肺扁平上皮癌病理標本において50/62(80.6%)および舌扁平上皮癌病理標本において42/57(73.7%)の高頻度にて腫瘍細胞においてArl4cの発現が認められた。また、いずれの症例においても非腫瘍部においてArl4cは発現していなかった。②肺および舌扁平上皮癌細胞株においてArl4cをノックダウンすると運動能が抑制されたが、Arl4cの過剰発現によりその抑制効果は回復された。また、Arl4cをCRISPR/Cas9システムを用いてノックアウトすると運動能が抑制され、その細胞株にCRISPR/Cas9システムのPAM配列に相当する塩基に変異を有するArl4cを過剰発現するとその抑制効果は回復した。③舌扁平上皮癌細胞株ではArl4cの発現はβ-カテニンには依存しないが、MEK/MAPKシグナルに依存していた。一方、肺扁平上皮癌細胞株ではこれらのシグナルに依存していなかった。④肺扁平上皮癌病理標本および肺扁平上皮癌細胞株から得られたDNAにおいてArl4cの3'非転写領域が脱メチル化状態であった。⑤肺扁平上皮癌細胞株において脱メチル化酵素(TET1, TET2, TET3)の発現が高く、それらの発現をノックアウトするとArl4cの3'非転写領域がメチル化され、Arl4cのmRNAおよびタンパクレベルで発現が抑制された。⑥癌ゲノムアトラス(The Cancer Genome Atlas)を用いたヒト肺扁平上皮癌379症例の解析結果から、腫瘍部においてArl4cが高発現し、Arl4c DNAの3’非翻訳領域が低メチル化状態であることが明らかとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
平成28年度の研究結果から肺および舌扁平上皮癌細胞においてArl4cは高発現し、その発現は腫瘍形成に必要であること、Arl4cがヒト扁平上皮癌において増殖因子シグナルに加えてDNAのメチル化により発現制御されていることが明らかとなった。これらに関して、当初想定した(遺伝子変異によりβ-カテニンおよびMEK/MAPKシグナルが異常活性化している癌腫)以外に多種の癌腫(β-カテニンおよびMEK/MAPKシグナルの遺伝子変異の報告が少ない癌腫)においても腫瘍細胞においてArl4cが発現するという結果であった。また、CRISPR/Cas9システムを用いて、肺扁平上皮癌におけるArl4cの発現がTET1-3を介したDNAの脱メチル化機構に依存していることを見出したため、当初の計画以上に進展していると考えている。
① ヒト口腔扁平上皮癌(舌・歯肉・口蓋・頬粘膜等)病理標本におけるArl4c発現を免疫組織学的に検討する。また、その発現と臨床病理学的な相関(再発の有無、癌の分化度、5年生存率、無再発生存期間等)について100症例程度検討する。この結果、Arl4cが癌予後予測マーカーとなりうるか検討する。②網羅的に口腔扁平上皮癌細胞株におけるArl4cの発現とその発現機序、すなわち増殖因子シグナル(β-カテニンおよびMEK/MAPKシグナル)またはDNAメチル化について検討する。また、Arl4cを高発現する口腔扁平上皮癌標本からDNAを抽出し、増殖因子シグナルを活性化する遺伝子(EGFRやRas等)の変異について検討する。③舌発癌モデルにおいてsiRNA 投与によるArl4cの発現抑制が腫瘍形成に与える影響の検討をする。具体的には、4-nitroquinoline-1-oxide (4-NQO)化学刺激誘発によるマウス舌発癌モデルを作成し、肉眼的に舌癌の形成を認めたら病変部を採取、固定後標本を作成し、免疫組織学的にArl4cの発現を検討する。また、4-NQO化学刺激後の時間経過と共にArl4cの発現をモニターする。腫瘍においてArl4cを発現する時期にあわせてArl4cのsiRNAをアテロコラーゲンと混和後、腫瘍組織に局所投与(in vivo siRNA)する。Arl4cの遺伝子発現の抑制と共に抗腫瘍効果(腫瘍体積と重量の減少)について検討する。また、移植片を採取、標本を作成しKi67陽性の増殖腫瘍細胞数について検討し、舌癌において核酸医薬の局所投与によるArl4cの発現抑制が、抗腫瘍効果を有するか否かを明らかにする。
本研究計画では舌発癌モデル作成後、siRNAを用いてArl4cを発現抑制し、抗腫瘍効果を検討することを目的とする。平成28年度はモデルマウスの作成を行わなかったが、in vitro実験系におけるArl4cの機能解析および発現制御機構の解明について検討した。そのため動物実験用に計上していた使用額を次年度へと繰り越した。
舌発癌モデル作成後、siRNAを用いてArl4cを発現抑制し、抗腫瘍効果を検討する。具体的には、4-nitroquinoline-1-oxide (4-NQO)化学刺激誘発によるマウス舌発がんモデルを作成する。腫瘍においてArl4cを発現する時期にあわせてArl4cのsiRNAをアテロコラーゲンと混和後、腫瘍組織に局所投与(in vivo siRNA)する。網羅的に口腔扁平上皮癌細胞株におけるArl4cの発現とその発現機序、すなわち増殖因子シグナル(β-カテニンおよびMEK/MAPKシグナル)またはDNAメチル化について検討する。また、Arl4cを高発現する口腔扁平上皮癌標本からDNAを抽出し、増殖因子シグナルを活性化することができる遺伝子(EGFRやRas等)の変異について検討する。
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