研究課題
口腔癌の骨転移や多発性骨髄腫は骨破壊を来す難治性悪性腫瘍であるが、腫瘍抑制と骨病変に骨再生をもたらす治療法の開発が喫緊の臨床課題である。申請者は、とりわけ広範な骨破壊を来たす骨髄腫の腫瘍進展と骨破壊・喪失をもたらす細胞内シグナルに関わる枢軸的な因子としてセリンスレオニンキナーゼTAK1を見出した。そこで本研究では、TAK1の腫瘍の進展と骨破壊・喪失における役割を分子生物学的に明らかにするとともに、TAK1を標的とすることにより新規の機序で腫瘍抑制を図りつつ、骨吸収を抑制するとともに骨喪失部に骨再生を誘導するというこれまでに開発されることのなかった画期的な作用を発揮する治療法を開発し、動物モデルで実証することを目的として、研究を遂行している。平成28年度は以下の事象が明らかとなった。1. 腫瘍細胞においてTAK1の発現とリン酸化が亢進していた。また、TAK1阻害薬LLZ1640-2 (LLZ) やTAK1ノックダウンにより、腫瘍細胞の増殖を抑制し、アポトーシスを誘導した。 2. TAK1阻害により腫瘍からのVEGF産生や生存に重要なBCMAやTACIの発現を抑制した。 3. LLZは、in vitroにおいて腫瘍細胞培養上清の添加下で抑制された骨芽細胞分化を回復した。 4. TAK1阻害はRANKLによる破骨細胞形成を抑制した。これは、TAK1がRANK/RANKLシグナルを媒介する重要な因子であることが考えられた。 5. LLZはマウス骨髄腫モデルにおいて腫瘍の縮小と骨破壊病変形成を抑制した。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究の検討事項は1.骨髄腫による骨吸収の亢進と骨形成の抑制におけるTAK1の分子生物学的役割の解明とTAK1の阻害の破骨細胞と骨芽細胞分化に及ぼす影響 2.骨髄腫の腫瘍進展・薬剤耐性におけるTAK1の分子生物学的役割の解明とTAK1の阻害の抗腫瘍効果の検討 3.TAK1阻害で誘導した成熟骨芽細胞の腫瘍抑制活性の検討とその分子機序の解明 4.TAK1阻害薬の骨髄腫動物モデルでの抗腫瘍作用と骨病変の進展防止・骨再生作用の検討であるが、各検討事項の基軸となる結果はほぼ得ることができた。
基軸となる結果は得られていることから、今後は各研究項目の詳細な解析を行う。具体的には、1)骨髄腫細胞株にTAK1阻害薬およびTAK1特異的siRNAを導入し、骨髄腫細胞の抗アポトーシス因子であるPim-2, c-Myc,やMcl-1の発現および4E-BP1の活性化を調べる。さらに、TAK1阻害薬の骨髄腫腫瘍幹細胞に及ぼす効果をコロニーアッセイで評価し、さらに “side population (SP)”分画の割合をフローサイトメトリーにて検討する。2)TAK1阻害薬の腫瘍により抑制された骨芽細胞分化回復の分子メカニズムを検討するために、骨芽細胞分化に関わる主要なシグナル経路であるWnt/βcatenin経路やBMP経路を解析する。3)in vivoにおいて、腫瘍の縮小と骨破壊病変形成を抑制する結果が得られた。さらに詳細な解析をするため、病理組織、骨形態計測を行い、骨形成および骨吸収を評価し、TAK1阻害薬の抗腫瘍活性と骨再生活性を実証する。
教室保有のものを使用したため、科研費使用金額が少額となった。したがって、次年度への繰越金が生じた。
TAK1阻害による骨髄腫細胞のアポトーシスの解析およびSP細胞の解析を行うためフロ-サイトメトリー関連抗体・試薬の購入費に充てる。また、TAK1の強制発現ベクター作成の費用にも充てる。さらに、動物実験では大量のTAK1阻害剤が必要となるため、その購入費用にも充てる。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 2件、 査読あり 10件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 図書 (1件)
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