研究課題
申請者は、とりわけ広範な骨破壊を来たす骨髄腫の腫瘍進展と骨破壊・喪失をもたらす細胞内シグナルに関わる枢軸的な因子としてセリンスレオニンキナーゼTAK1を見出し、前年度は本研究課題の基軸となる結果を得ることができた。今年度は、それらの結果についての詳細な機序の解析を行い、以下の結果が得られた。1. 骨髄腫患者の組織アレイを作成し、免疫染色でTAK1のリン酸化を検出したところ、50例中42例にTAK1リン酸化の亢進が認められた。2.TAK1阻害薬LLZ1640-2 (LLZ) やTAK1ノックダウンによる腫瘍細胞の増殖を抑制やアポトーシスの誘導は、抗アポトーシス因子であるPIM2やsp1の発現低下により引き起こされることがわかった。3. TAK1阻害により腫瘍細胞の接着分子であるβ-1インテグリンの発現が抑制された。また、骨髄間質細胞に発現するそのリガンドであるVCAM-1の発現もTAK1阻害により抑制された。これらの分子を介した骨髄間質細胞と骨髄腫細胞との接着により腫瘍細胞はCell adhesion mediated drug resistance (CAM-DR)を獲得するが、TAK1阻害薬との併用によりCAM-DRが顕著に抑制されることが明らかとなった。4.腫瘍細胞により抑制された骨芽細胞分化はTAK1阻害により回復することが前年度明らかとなったが、これはTAK1阻害により骨芽細胞分化抑制系のシグナルであるTNFやTGFシグナルを抑制化する一方、促進系のシグナルであるBMP2シグナルを亢進され、骨芽細胞分化を回復することが明らかとなった。5. 前年度においてLLZの治療効果を確認したが、組織学的解析(骨形態計測)により抑制された骨形成を回復し、骨吸収を抑制することが明らかとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究計画での主な4つの検討事項のうち1.骨髄腫による骨吸収の亢進と骨形成の抑制におけるTAK1の分子生物学的役割の解明とTAK1の阻害の破骨細胞と骨芽細胞分化に及ぼす影響 2.骨髄腫の腫瘍進展・薬剤耐性におけるTAK1の分子生物学的役割の解明とTAK1の阻害の抗腫瘍効果の検討 3.TAK1阻害薬の骨髄腫動物モデルでの抗腫瘍作用と骨病変の進展防止・骨再生作用の検討についてははほぼ結果が得られている。一方、TAK1阻害で誘導した成熟骨芽細胞の腫瘍抑制活性の検討とその分子機序の解明については現在解析を進めており、結果も少しではあるが得られてきている。また、実際の臨床検体を用いたTAK1の発現解析も結果が得られたことから、当初の計画以上に進展していると判断した。
TAK1阻害で誘導した成熟骨芽細胞の腫瘍抑制活性の検討とその分子機序の解明について検討を行う。具体的にはTAK1阻害薬で誘導した成熟骨芽細胞との共存下での、骨髄腫細胞の生細胞数とそのSP分画の割合をフローサイトメトリーにて評価する。さらに、骨髄腫細胞のエネルギー産生など細胞代謝に関連する因子であるカルモジュリンキナーゼキナーゼβ経路やPI3K/Akt /mTOR経路の活性、脂肪酸やコレステロールなどのバイオマスの合成に必要なacetyl-CoA carboxylaseやHMG-CoA還元酵素などの活性の影響を調べ、骨形成環境が生み出す腫瘍排他的ニッチに焦点をあてその分子病態を明らかにする。
教室保有のものを使用したため、科研費使用金額が少額となった。したがって、次年度への繰越金が生じた。生体におけるTAK1阻害による骨形成や骨病変抑制の詳細な機序を解析するため、繰越金は動物実験やその解析費用に充てる。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 4件、 招待講演 3件)
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