研究課題
癌組織内の細胞外pHは,しばしば酸性を示す。これは,乳酸を最終代謝産物とする“好気的解糖”あるいは“Warburg effect”として知られている。前年度で明らかにした事項として,口腔扁平上皮癌細胞を酸性pHで長期(2ヶ月間以上)にpH 6.2でも増殖するpopulationを作成することによりCD44v陽性のside populationが増加するとともに,高いスフェア形成能とヌードマウスへの高い造腫瘍性が確認された。ここで,酸性細胞外pHに馴化した細胞は,性質が馴化したのか,もしくはもともと存在している酸性pH耐性populationが酸性pHにて培養することで選別されただけのことかという疑問が生じた。そこで,中性環境にて細胞をクローニングし,その細胞を酸性pHへ馴化させ造腫瘍性をオリジナルクローンと比較した。その結果,酸性馴化株の方が,腫瘍形成率が有意に高くなることが分かった。このことは,もともと存在していた酸性pHで増殖可能な造腫瘍性クローンのpopulationを増やしたとの仮説を否定した。また,スフェア形成能は、酸性pHで培養することで維持されたが、中性pHで培養を続けると低下した。従って,酸性pHへの馴化による癌幹細胞用変化は遺伝子変異を伴う変化ではなく,可逆的な変化でありながら,比較的長期に維持されることを示している。一方,酸性細胞外pHの受容機構として,甘味の受容に関与するTRPM5の関与明らかにするとともに,この特異的阻害物質の投与によりマウス皮下に移植したメラノーマの自然肺転移を抑制させることができ,TRPM5を標的とした新たながん治療戦略の情報を提供した。
2: おおむね順調に進展している
酸性細胞外pHの情報受容機構についての論文を発表するとともに,関連の総説も刊行することができた。
酸性細胞外pH(pH 6.2:ほとんどの細胞が増殖を停止し,細胞死へ向かう分岐となるpH)の環境下で増殖できるようになった細胞のオリジンについて検討したところ,もともと増殖可能な酸性pH耐性クローンの占める割合が増えたのではなく,細胞自身の性質を変化させpH 6.2における耐性細胞となり,かつ,癌幹細胞として性質を獲得することでマウスへの造腫瘍性が獲得されたことが証明された。この性質獲得は,安定はしているものの,中性pHで30代程度継代培養を続けることで獲得した性質が低下することも明らかとなった。このことは,酸性pHでの継代培養により獲得した癌幹細胞としての性質獲得は可逆的であり,遺伝子変異のような不可逆的なことではないことを示している。酸性pHでの継代培養により癌幹細胞としての性質の獲得に関与する遺伝子発現と,その制御機構について,特に糖代謝酵素やアミノ酸代謝に関与する酵素などの遺伝子のプロモーター活性の調節機構について検討する。また,新たに見出した,脂肪細胞様の変化についても検討を進める。
論文投稿料を前倒しで使用する予定であったが,手続きが間に合わなかった。従って次年度使用額が114067円あるが,見かけの値で,実際は既に投稿料の支払いがすでに行われているので実質の残金ではない。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (7件)
Japanese Dental Science Review
巻: 54 ページ: 8~21
10.1016/j.jdsr.2017.08.003
Journal of Dentistry & Oral Disorders
巻: 4(3) ページ: 1094
EBioMedicine
巻: 26 ページ: 10
10.1016/j.ebiom.2017.11.010
Oncotarget
巻: 8 ページ: 78312~78326
10.18632/oncotarget.20826