研究課題/領域番号 |
16K11526
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
今井 健一 日本大学, 歯学部, 教授 (60381810)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | EBV / 歯周病 / 根尖性歯周炎 |
研究実績の概要 |
歯周病と根尖性歯周炎による歯の喪失は、食生活に支障をきたすのみならず日常会話などの社会生活にも悪影響を及ぼす。QLO維持のためにも両疾患の病因の解明と新規予防・治療法の開発は重要である。また近年、歯周病が誤嚥性肺炎などの全身疾患の原因となることが明らかとなり、超高齢化社会を迎えるわが国において歯周病対策はより重要となる。しかし、両疾患の発症と進展には、細菌が関与する事は解っているものの、未だその病因はよく解っていない。近年、進行性や難治性の歯周病および根尖性歯周炎の発症にヘルペスウイルスであるEBウイルス(EBV)が関与するとの興味深い臨床報告が多数なされている。歯周ポケットや唾液中のEBV量と歯周病の進行度が相関しており、特に重症の歯周疾患ではその関連性はより高くなる。われわれもこれまでに、歯周病原菌の量のみならずEBVのDNA量も歯周病の進行度と相関関係にあること、歯周病変部や根尖性歯周炎組織においてEBV RNA:EBERが検出されることを報告してきた。しか、EBVが歯周疾患の発症にどのように関与しているのか?この問題に関しては世界的に見ても具体的な報告がない。そこで研究を進めた結果、本年度はヒトの歯肉線維芽細胞を用いて、EBVによるNF-kBを介する炎症性サイトカイン産生の分子メカニズムを明らかにするとともに、根尖性歯周炎患者においてEBVの活性化度と病態の進行度が相関することを見出した。また、新たにインプラント周囲炎の患者からもEBVが検出されることを報告した。さらに、動物実験を進め、ヒト化マウスの歯肉、歯根内にEBVを確実に注入する技術を習得することもできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大きく分けた研究課題の2つとも順調に進んでいると共に、EBVと歯周疾患の関連に関して基礎から臨床的研究まで幅広く発展した。in vitroの研究が進展したのみならず、新たに根尖性歯周炎患者の臨床サンプルにおいて、病態とEBV検出の関連性を見出すことが出来た。また、動物実験においても、尾静脈からEBVを注入したマウスにおいて歯根や歯髄にEBVが検出されること、それと関連して破骨細胞が認められることを確認した。これらの成果を学会で報告すると共に、一部のデータは論文としても発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
歯周疾患の発症と進展におけるEBVの重要性をより明確にするために、患者サンプルにおけるEBVコピー数とEBVを再活性化しうる細菌数との関係を明らかとする。また、患部EBVの潜伏、もしくは活性化状態を分子生物学的および免疫組織学的手法を用いて解析するために、潜伏感染はLMP1を、活性化状態はその指標となるEBVの転写因子ZEBRAの発現をPCRとウェスタンブロットにて調べる。インプラント周囲炎に関しては、治療前後におけるEBV量の変化を調べ、インプラント周囲炎の進行におけるEBVの重要性を示す。EBVによる炎症性サイトカイン誘導機構においては、NF-kBの関与は詳細に解析できたため、EBVがどのようにNF-kBを活性化するのか、特にレセプターの関与を中心に解析を進める。また、EBVのどの分子が炎症性サイトカインを誘導するのか、過去の文献から候補を絞り込み、分子生物学的・生化学的解析を進める。 動物実験に関しては、NOGマウスにヒト骨髄由来CD34陽性細胞を移植することでヒト化マウスを得ているが、EBVの感染効率をあげるために、細胞量や移植時間を中心にさらなる条件検討を継続して行う。さらに、吸入麻酔下で、ヒト化マウスの歯肉に直接EBVもしくはEBV抗原EaDを投与し、組織破壊等を確認後、3次元CT撮影を行い骨吸収の状態を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に購入した分子生物、生化学解析関連の試薬等で効率よく研究が行えたため、また今年度は根尖性歯周やインプラント周囲炎など臨床研究も行っていたため試薬やシャーレ等の消耗品があまり必要でなく残金が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度に行う、EBVの活性化もしくは潜伏感染状態と臨床症状との関連を解明する研究とEBVによるサイトカイン誘導の細胞内シグナル解析のために、新たに関連抗体と遺伝子プライマーおよびリン酸化測定キットを購入する。また、動物購入と成果発表のための国内旅費および論文投稿費として使用する。
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