研究課題/領域番号 |
16K11526
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
今井 健一 日本大学, 歯学部, 教授 (60381810)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 歯周疾患 / EBV / 炎症性サイトカイン |
研究実績の概要 |
歯周病は、骨破壊を伴う難治性の炎症性疾患であるが、未だその病因は解明途上にある。申請者らは、Epstein-Barr virus (EBV)が歯周病と根尖性歯周炎の発症に関与し得ることを突き止め研究を継続している。最近の報告で、EBVが歯肉上皮細胞にも感染していること、EBVの膜蛋白遺伝子Latent membrane protein (LMP1)の発現と歯周ポケット深さとが関連していることが示された。そこで今回、LMPは炎症性サイトカインを誘導することで、歯周病の発症に関与しているのではないかと推察し実験を行った。その結果、LMP1の導入により、IL-1、IL-8及びTNFのmRNA発現上昇が認められた。特に、IL-8のmRNAの発現は顕著で、LMP1の導入量及び時間依存的に大量のIL-8産生が誘導された。また、LMP1はNF-kBを活性化すること、DN型I-kBがLMP1誘導性IL-8産生を抑制することが解った。さらに、△LMP1を用いた実験から、LMP1のTRAFとTRADD結合領域がLMP1によるIL-8産生に必須であることが明らかとなった。今回の結果から、我々は、EBVが歯肉線維芽細胞からIL-6とIL-8を誘導することを報告しているが、LMP1誘導性の炎症性サイトカインが破骨細胞形成を促進する等により歯周病の発症に深く関与していることが示唆された。EBV関与機構の解明は、これまで細菌感染のみでは説明が困難であった歯周病発症機序の解明に繋がる可能性がある。また、臨床研究では、新たにインプラント周囲炎患者におけるEBV感染の関与を明らかにすることができた。動物研究も進展し、EBV感染と破骨細胞形成に関する実験が進んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
EBVと歯周疾患の関連に関して基礎から臨床的研究まで幅広く発展した。特にEBVによる疾患発症メカニズムとして、新たにLMP1の関与を見出し論文投稿まで至った。根尖性歯周炎患者の臨床サンプルにおいても、EBV再活性化における細菌の役割を見出しつつある。また、動物実験においても、NOGマウスに人の骨髄を注入したヒト化マウスにおいて、EBVの検出と破骨細胞形成の関連性の研究解析が進んだ。 これらの成果を学会で報告すると共に、一部のデータは論文としても発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
申請者らが新たに発見したEBV EaDによる炎症性サイトカイン誘導現象は、EBVが歯肉や滑膜等において、ウイルスがB細胞に感染することなく種々の細胞と接触するのみでシグナルが入り、炎症を惹起できることを意味している。従い、EaDが新規治療標的となり得るため、 EaDの細胞に対する作用とシグナル伝達系を詳細に解明する。具体的には、EaD の受容体になり得るToll like receptor(TLR)とその下流のシグナルについて検討する。さらに、ヒト化マウスにおいて、EaDシグナルを阻害する薬剤やTLRの中和抗体がEBV誘導性の炎症と骨吸収を抑制するか否かを検討することにより、新規治療標的としての分子基盤を確立する。臨床、および動物実験も進め論文としてまとめる。具体的には、歯周組織とにおいてEBV感染細胞を特定するために、EBV EBERと種々の細胞表面マーカーの発現を特異的プローブを用いたin situ hybridizationを行う。さらに、3次元CT撮影を行い骨吸収の状態を評価する。その後マウスを解剖し、当該部位でのEBVと破骨細胞の局在と炎症性細胞浸潤との関連性を免疫組織学的及び生化学的手法を用いて解析するとともに、血中のCRPや炎症性サイトカインを測定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度からの予備実験が順調に経過し、高額であるマウスの購入額が抑制できた。またこれまでに、購入した分子生物、生化学解析関連の試薬等で効率よく研究が行えたこと、他の研究費で旅費がまかなえた。次年度使用額と平成30年度助成金を合わせて、本年度に行うマウスを用いた免疫染色実験で使用する関連抗体、炎症性サイトカインを測定するためのELISAキットを中心に使用する予定である。
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