研究課題/領域番号 |
16K11532
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
後藤 満雄 愛知学院大学, 歯学部, 講師 (60645191)
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研究分担者 |
野本 周嗣 愛知学院大学, 歯学部, 教授 (40300967)
中西 速夫 愛知県がんセンター(研究所), 分子腫瘍学分野, 研究員 (20207830)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 口腔扁平上皮癌 / 上皮間葉移行 (EMT) / Podoplanin / 抗体 / 増殖 / 浸潤転移 |
研究実績の概要 |
本年度の実験において、以下の点を明らかにした。 UMSCC81B細胞株を含めた複数のヒト口腔扁平上皮癌(OSCC)細胞株においてPodoplanin 発現はTGF-βにより増強されたが、この変化はSmad2のリン酸化を介していた。反対にPodoplanin発現はTGF-β type I受容体阻害剤により抑制された。また、Podoplanin発現はHistone deacetylase (HDAC) inhibitor により抑制されるなどエピジェネティクスの関与も示唆されたが、DNAメチル化異常は認められなかった。また、TGF-βはPodoplanin発現の促進とともに、E-cadherinの発現抑制とvimentinの発現を増強し、EMTを誘導した。このPodoplaninの発現とEMTとの関連についてRap1がどのように関与するかを現在in vitro系で検討中である。 上記の結果からPodoplaninのブロックがEMTを抑制し、従ってOSCCの増殖、浸潤転移の抑制に繋がることが予想された。そこでin vivo実験としてPodoplanin抗体を用いた分子標的治療の検討を行った。まずPodoplanin抗体がマウス皮下腫瘍に集積することをICG標識Podoplanin抗体を用いた蛍光イメージング法を用いて確認した。次に種々のPodoplanin抗体のうちADCC活性の高いことが知られている抗体 (LPMab-21)を用いてPodoplanin高発現OSCC株 (UMSCC-81など)のヌードマウス皮下移植腫瘍に対する抗腫瘍効果を検討した。しかしながら、当初の予想に反し、今回の検討では有意な抗腫瘍効果は認められず、今後さらなる検討が必要と思われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
約50例のOSCC患者組織標本を用いてPodoplaninの発現を比較検討した結果、高分化型扁平上皮癌に比べ低分化型癌で発現が高い傾向があることが判明した。そこで低分化型OSCC細胞株でPodoplaninを高発現すると同時にがん幹細胞マーカーも高発現するUMSCC81B細胞のヌードマウス移植腫瘍を用いてin vitro及びin vivo(抗腫瘍効果)の両面から検討した。UMSCC81B細胞株を用いたIn vitro実験では Podoplaninをノックダウンにより発現抑制すると、E-cadherinや扁平上皮マーカー(CK13)の発現上昇など分化の促進と軽度の増殖抑制を示唆する結果を得た。しかしながら、ADCC活性及びCDC活性の高いPodoplanin抗体(LPMab-21)を用いたマウス皮下腫瘍モデルを用いた予備的なin vivo実験の結果では、予想に反して明らかな抗腫瘍効果や浸潤抑制効果は認められなかった。Podoplanin抗体はそもそもMAPK経路やPI3K/Aktなどの増殖シグナルを直接的には阻害しないので、抗腫瘍効果は間接的で比較的マイルドである可能性も示唆された。今後、Podoplanin抗体の抗腫瘍効果については後記するように種々の工夫を行うなど、さらに詳細な検討を行う必要がある。 上記とは別に、研究代表者の在外研究(平成30年8月より米国、ミシガン大学)が発生し、上記研究遂行が困難となった。 以上の理由により、平成31年度への補助業期間の延長を申請し承認された。今後、引き続き上記研究実施計画に基づいて検討を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
上記の進捗状況をふまえて、今後以下のごとく研究を進めて行く予定である。 1)本年度の実施計画で十分遂行できなかったPodoplaninの発現変化に伴う癌細胞の増殖と浸潤能の変化に対して、Rap1がどのように関与するかを引き続きin vitro実験で検討して行く。2) In vivoの抗腫瘍効果を検討する実験において、当初の予想に反して明らかな腫瘍縮小効果が観察されなかった。このin vivo及びin vitroでの結果、またPodoplaninの機能面も含めて考え直してみるとPodoplanin抗体の抗腫瘍効果はあっても免疫学的機序に基づくマイルドな効果に止まる可能性が高いものと考えられる。今後、マイルドな抗腫瘍効果を検出するには移植後早期からの治療などレジメの変更や抗体IL-2など生物製剤の併用投与などにより免疫反応を促進させることなど、種々の角度からの検討が必要であると思われる。またPodoplanin抗体は血小板凝集を抑制し、転移を抑制することが古くから知られている。OSCCマウスモデルは一般に転移能が低く、転移実験には必ずしも適したモデルではないが、今後抗腫瘍効果だけでなく転移にも注目して、肺転移などへの影響に関しても組織学的に詳細に検討してゆく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:当研究施設に既存している設備を使用した実験が多く、設備備品費の未使用額が発生した。消耗品費に関しては、前年度分の在庫がまだ残っていたため、本年度の未使用額が生じた。また、研究代表者の在外研究(平成30年8月より米国、ミシガン大学)が発生し、研究遂行(経費の執行)が困難となったことも理由である。 使用計画:当該年度に達成できなかった研究を、適正かつ効率的に研究費を使用しながら研究計画書に基づいて進めて行く。
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