研究課題/領域番号 |
16K11537
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
泉福 英信 国立感染症研究所, 細菌第一部, 室長 (20250186)
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研究分担者 |
中尾 龍馬 国立感染症研究所, 細菌第一部, 主任研究官 (10370959)
成澤 直規 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (90632034)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | バイオフィルム / eDNA / 膜小胞 / Streptococcus mutans / Staphylococcus aureus / グルコシルトランスフェラーゼ / クオラムセンシング / ナノファイバー |
研究実績の概要 |
高齢化と共に、歯周病、日和見菌感染症、口腔粘膜疾患、誤嚥性肺炎などの疾患になりやすい人は、少子高齢化が進む日本で着実に増えている。しかし、これらの疾患に関わる病原性バイオフィルム(BF)形成メカニズムは詳細に明らかになっていない。口腔常在菌よりも病原性が高いとされる黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)やCandida albicansなどとStrepotococcus mutansなどの口腔常在菌との複合菌BF形成メカニズムを明らかにすることを目的とする。平成28年度の研究において明らかになったS. mutans UA159とS. aureusとの混合BF形成について、フローセルシステムを用いて実験を行うと、62.5mM NaCl存在下で培養16時間で有意なBFを形成することが明らかとなった。粗抽出DNAによる非水溶性グルカン合成能が欠落したS. mutans UA159.gtfBC変異株のBF形成メカニズムは、GTF依存的であることが明らかとなった。粗抽出DNAにGTFが含まれていることが示唆された。そこで、粗抽出DNAを電子顕微鏡で観察すると、小胞のような小さな粒が付着していることが明らかとなった。S. mutansの培養上清から超遠心にて小胞を抽出し、この小胞にはグルコシルトランスフェラーゼ(GTF)の存在が確認された。GTF付着小胞が粗抽出DNAに結合することで、粗抽出DNAにBFを形成する能力が備わったことが考えられた。また、小胞は膜由来産物である可能性が高く、このGTFが付着した膜小胞がDNAと複合体を形成し、様々な口腔細菌のBF形成を誘導することが考えられた。MVsによるS. aureusやC. albicansのBF形成誘導能について検討すると、それらの誘導能は低く、GTFに依存していなく、eDNA依存的である可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度の研究において、口腔常在菌S. mutans UA159と日和見菌S. aureusとの混合BFは、62.5mM NaCl存在下という高塩の条件下でクオラムセンシングの下に死菌の誘導により形成されることが明らかになった。これは、通常の口腔環境条件が変化し、ストレス環境下となり、その際に日和見菌と常在菌の混合バイオフィルムが形成されることを示唆している。さらに、平成29年度は, 細胞外 DNAや細胞外RNAがグルコシルトランスフェラーゼ(GTF)が付着した膜小胞と結合し複合体を形成、それが他の口腔常在細菌(Streptococcus gordonii, Streptococcus oralis, Actinomyces naeslundiiなど)の口腔BF形成の鍵となることが明らかになった。そのメカニズムに、GTF依存と細胞外 DNAに依存したメカニズムの2つが存在していることも明らかになった。このGTFに依存したメカニズムは、口腔常在菌のBF形成に深く関係するものの、日和見菌のBF誘導に深く関与していなかった。一方、細胞外 DNAや細胞外RNAが結合した膜小胞によるBF形成が、日和見菌のバイオフィルム形成に関与している可能性が示唆された。細胞外DNAが付着したMVによるBF形成にナノファイバーが関与しており、またストレス環境下において菌表層のシャペロンがBF形成に関係することも考えられた。これらのことから、本研究の目的である細胞外 DNA、細胞外RNA、ナノファイバー、シャペロンの常在菌と日和見菌とのBF形成メカニズムへの関与は、細胞外 DNAや細胞外RNAが結合したGTF付着膜小胞を明らかにしたことで、急激に進展した。このことから、当初の計画よりも進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
細胞外 DNAや細胞外RNAが結合したGTF付着膜小胞を明らかにしたことで、最終目的達成のためこの膜小胞の形成メカニズムとその特性を明らかにする。gtfBおよびgtfCの単独変異株、Quorum sensingに関わる遺伝子の変異株、Com依存遺伝子変異株(comC, comD, comE, comX, comR, comS, comYA)やLuxS依存遺伝子群(luxS, luxR)の変異株、YidC1およびYidC2の膜シャペロン変異株から膜小胞を採取する。それら膜小胞を加え、単独および複合微生物(S. aureusおよびC. albicansを含む)の以下のバイオフィルム形成実験を行う。 1)96穴プレートを用いたBF形成実験 ヒト唾液をコートした96穴マイクロタイタープレートを用いて、16時間、37℃で培養を行う。 2)フローセルを用いたバイオフィルム形成実験 ヒト唾液をセルにコートしPBSにて洗浄後、変異株や親株からの膜小胞とS. mitis、S. oralisなどの口腔常在菌単独およびS. aureusやC. albicansとの複合菌をセルへ接種。3 ml/時間のフロー、16時間、37℃で培養を行う。バイオフィルム形成の評価は、Live/Dead染色:BacLightTM Viability Kitで染色し共焦点レーザー顕微鏡を用いたCOMSTAT解析により蛍光強度を定量的に検討する。 3)マウスモデルを用いたバイオフィルム形成実験 0.2%クロルへキシジンや抗生物質でマウス口腔を一次的に無菌化しPBSにて洗浄後、滅菌したヒト唾液を処理しPBSにて洗浄、上述の膜小胞や菌株を接種し、変異株と親株のバイオフィルム形成量の比較を行う。バイオフィルム形成量は歯表面のスワブサンプル中の菌定量を培養法にて行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)3月末に行った国内学会の支払いが、事務手続きの関係上支払いが間に合わくなり、次年度支払いになったため。加えて、年度末を越えて一連の実験を続ける必要が生じ、常に新しい試薬を購入して実験を行いたいため、消耗品の支払いが次年度に回ってしまった。 (使用計画)次年度使用額に関して4月~6月初めまでに使用を終了する予定である。平成30年度分は、4月から来年の3月にかけて、菌培養の消耗品、動物実験の消耗品、論文発表の掲載料、英文校閲料、国内外発表の旅費、学会参加費等に使用し、3月末までに使い切る予定である。
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