研究実績の概要 |
日和見菌と口腔常在菌との複合菌バイオフィルム(BF)形成メカニズムを明らかにする検討を行った。昨年、S. mutansからの粗抽出DNAにはBF形成能力を付与するGTFが結合した膜小胞が付着していることを明らかにした。そこで、プロテナーゼKを用いて膜小胞を除きGTFの関与を失くすと、DNAは、それでも一定の濃度でStreptococcus mutans gtfBC 変異株のBF形成を誘導した。これは、DNAの非特定な菌表面やプレート表面への結合に由来すると考えられた。一方、膜小胞が結合した粗抽出DNAは、歯表面初期付着菌であるStreptococcus mitis, Streptococcus oralis, Streptococcus gordonii, Actinomyces naeslundiiのGTFに依存的なBF形成を強く誘導し、S. aureusやC. albicansのBFを誘導しなかった。よって、膜小胞が結合したDNAは特異的にBFを形成し、完全抽出DNAによるBF形成には特異性がなかった。完全抽出DNA はS. aureusやC. albicansなど日和見菌のBF形成を誘導することが示唆された。このようなDNAが放出されるには、菌を破壊するクオラムセンシング(QS)システムが必要である。そこで、QSシステム関連遺伝子のcomX, comR, SMU2065, SMU940やペプチドグリカン合成遺伝子のSMU832, SMU833などの変異株を作製し、それらの膜小胞を抽出、BF実験に加えた。その結果、comRやSMU940変異株膜小胞にはGTFの結合が多く見られまたBFを強く誘導し、一方comXとSMU832, SMU833にはGTFの結合量は減少し、BF形成量も減少した。このQSが、特異的および非特異的なBFを誘導する調節システムであることが示唆された。
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