研究課題/領域番号 |
16K11544
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
島田 康史 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 准教授 (60282761)
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研究分担者 |
北迫 勇一 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 非常勤講師 (30361702)
高橋 礼奈 東京医科歯科大学, 歯学部附属病院, 助教 (40613609)
田上 順次 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (50171567)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 亀裂 / エナメル質 / 光干渉断層系計 / 咬合 |
研究実績の概要 |
エナメル質は生体で最も硬い組織であるが、弾性率が低く亀裂が生じやすいことが知られている。しかしながらエナメル質の高い破壊靱性により、歯冠亀裂の分析は実験的に行うことが困難であり、臨床に反映する情報が得られていないのが実情である。本研究では光干渉断層計(OCT)の3D画像構築を利用し、歯冠亀裂の分析を行った。年齢30歳から55歳の患者から、上顎、下顎の健全歯を前歯、犬歯、小臼歯、大臼歯をそれぞれ10本、合計80本収集し実験に使用した。抜去歯の歯冠部からOCTによる3D画像を撮影し、3D画像からX、Y、Z軸方向の断層画像を抽出し、エナメル質亀裂の発症部位ならびに形態を観察した。 前歯は咬合接触部位と非接触部位の2か所から3D画像構築を行った。臼歯では機能咬頭と非機能咬頭において3D画像構築を行った。OCT画像観察後、歯冠を切断しCLSMによる観察を行い、SS-OCT画像と比較し亀裂の確認を行った。歯種による亀裂の発症状況と咬合接触部位による影響を分類し、得られた結果を有意水準0.05にて統計処理を行った。 OCTの3D画像構築を用いることにより、歯冠部の亀裂を立体的に観察し評価することができた。歯冠部に発生したエナメル質亀裂は、3D画像から次の3タイプに分類することができた。 タイプ1:エナメル質表層に横断的・水平的に走る亀裂、タイプ2:咬合面から歯肉側にかけて垂直方向に走る亀裂、タイプ3:タイプ1とタイプ2のハイブリッド亀裂 タイプ1とタイプ3は前歯と犬歯の咬合接触部位、臼歯の機能咬頭に多くみられ、タイプ2は前歯と犬歯の咬合していない部位、下顎小臼歯の非機能咬頭、上顎大臼歯の非機能咬頭に多くみられた。上顎小臼歯と下顎大臼歯の非機能咬頭ではタイプ2とタイプ3の亀裂が同程度みられた。統計処理を行った結果、歯種と咬合接触によって亀裂タイプの発生に有意差がみられた(P < 0.05)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
光干渉断層計(OCT)は歯科において使用されつつあり、う蝕や修復物のギャップ、歯の亀裂の観察に利用できることが知られている。亀裂部位に空隙ができ、その屈折率の違いによる反射シグナルによって画像表示される。本実験の結果から、OCTによる観察はCLSMによる歯を半切した画像とほぼ同様の結果が得られることを確認することができた。エナメル質亀裂の2DのSS-OCT観察では、光による透照診よりも高い感度と特異度が得られることが報告されている。したがって3D画像構築では、さらに正確な結果が得られたものと思われる。タイプ1の亀裂は、切歯や犬歯の咬合接触部位に多くみられ、また臼歯の機能咬頭にも観察することができた。したがって、咬合による圧縮や引っ張り応力によって生じた破壊と考えられる。このタイプの亀裂は深く侵入することがなく表層にとどまっており、エナメル質の小柱構造による高い破壊靱性によるものと推察された。タイプ3の亀裂はタイプ1の亀裂と同様、表層にとどまっていたものであり、それが拡大しやがて深部に浸透した形態と解釈することができた。タイプ2 の亀裂もエナメル質表層から生じるものであり、応力によってエナメル小柱に沿って破壊された形態と思われる。この亀裂はエナメル小柱の走行が変化する部位で進行が阻止されるが、さらなる外力によって方向を変えてエナメル小柱の破壊を生じており、その様子をOCTにて観察することができた。咬合接触のない非機能咬頭ではタイプ2の亀裂がみられたのに対し、機能咬頭部位ではハイブリッド亀裂のタイプ3が多くみられた。機能咬頭では咬合による圧縮応力が多く負荷されると思われるが、非機能咬頭では平衡側による引っ張りやせん断応力が負荷されることが多いと思われ、その応力の違いによるもの推察された。 以上の成果はあたらしい情報であり、その成果を国際誌に発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究から、光干渉断層計を用いて歯の内部に生じた亀裂を高い精度で検知し、3D画像で評価できることが分かった。特に咬合接触によって亀裂の形態が異なり、また伸展する様相にも変化がみられた。亀裂の形態は多様であり、したがって臨床における対応もそれぞれの亀裂を有効に抑制する方法を考案する必要がある。光干渉断層計では、歯の内部のわずかな変化を、非破壊で観察することができる。したがって、咬合などのストレスによる歯の内部の変化を評価することができると考えられる。今後さらに亀裂の評価に関する研究を発展させ、亀裂の発症機序の解明を目指し、歯の内部の破壊挙動を観察する予定である。 また高齢者の歯頚部にみられる非う蝕性欠損(楔状欠損)では、すでに予備実験から光干渉断層計による観察が有効なことが分かっている。歯頚部エナメル質に生じる亀裂や、象牙質におけるわずかな脱灰を、光シグナルの変化から評価することができる。今後、歯頚部におけるエナメル質ならびに象牙質の変化を観察する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究に使用する消耗品について次年度以降にまとめて購入し、また研究成果の発表に伴う旅費も来年度以降に使用することになったため
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次年度使用額の使用計画 |
研究の遂行に伴う消耗品の購入、ならびに学会発表の旅費に使用する予定である。
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