研究課題
歯科治療において、患者の訴えに翻弄され“拙速な診査・診断”を行い、結果として“誤診”や“誤治療”を招いている症例も少なからず存在する。この誘因となるものは患者の訴える“原因不明の歯痛”が挙げられるが、その実態は“関連痛”や“異所性の疼痛異常”などの異常感覚と考えられ、原因部位の同定を困難にしている。この発症メカニズムの本態を解明することは、診査・診断法の精度そのものが向上するだけでなく、新たな治療法の確立も可能となり、極めて臨床的意義および患者貢献度の高いプロジェクトであるといえる。申請者は、口腔顔面領域における異所性異常疼痛の発症メカニズムを解明するため、歯髄炎あるいは筋痛モデルラットを用いて三叉神経節および三叉神経脊髄路核内でのGlia-Cytokine-Neuron 間における機能連関あるいは細胞内物質合成変化の検索を行うことを目的とし、当該年度の研究を遂行した。平成28年度に計画していた<研究計画Ⅰ:急性歯髄炎により誘導される歯痛錯誤の末梢神経機構>において、同側第二臼歯への化学刺激により誘発される同側顎二腹筋筋放電の記録は各群間で良好な結果を得ることができた。また<研究計画Ⅱ:咬筋痛に誘導される歯髄痛覚過敏発症の中枢神経機構解明>では、咬筋痛覚過敏を有するラットの同側上顎第一臼歯への化学刺激により誘発される筋放電の記録では、各群間で有意差を得ることができ、良好な結果を得ることができた。さらに、ラット咬筋への持続的電気刺激により誘発される逃避行動閾値変化においても、各群間で有意差を得ることができ、良好な結果を得ることができた。以上より、当該年度は本研究テーマである「新たな歯痛治療法の確立を目指した口腔顔面痛の発症機構解明」において、様々な口腔顔面領域の疾病を有する際の、侵害刺激に対する逃避行動閾値変化を計画通り確認できたと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
本研究計画ではGlia細胞としてAstrocyte、MicrogliaおよびSatellite Glial cellにフォーカスを当て炎症後の活性変化、IL-1β、IL-10およびConnexin 43の発現変化を免疫組織学的に検索することを企図した。またカニューレを用いてこの領域に各種阻害薬あるいは拮抗薬を直接微量投与し、口腔顔面領域に対する機械、熱あるいは化学刺激により誘発される逃避行動閾値変化および筋放電量の増減を記録した後に解析し、異所性異常疼痛の発症メカニズムを総合的に解明する計画であるが、その研究の方向性で重要な位置づけとなる逃避行動閾値変化の結果が、研究計画書記載の<研究計画Ⅰ:急性歯髄炎により誘導される歯痛錯誤の末梢神経機構>および<研究計画Ⅱ:咬筋痛に誘導される歯髄痛覚過敏発症の中枢神経機構解明>ともに、予備実験で獲得したデータをもとに構築した<仮説Ⅰ:急性歯髄炎が発症すると、炎症を起こしていない隣在歯の歯髄痛覚過敏が発症する>、<仮説Ⅱ:咬筋痛覚過敏が発症すると、歯髄痛覚過敏が発症する>ともに付随していることが確認できたため。
平成29年度以降は申請書記載通り、以下の計画で遂行する予定である。研究計画Ⅰ:急性歯髄炎により誘導される歯痛錯誤の末梢神経機構1.三叉神経節の活性型Satellite glial cellおよびConnexin43の共発現の検索:右側上顎第一臼歯歯髄内CFA投与後、炎症のない第二臼歯支配神経細胞を標識するFG、三叉神経節内でSatellite glial cellの活性化マーカーであるGFAP、およびグリア間に存在するGap結合を構成するConnexin43との共発現を免疫組織学的手法にて解析する。2.Connexin43阻害薬による歯髄炎による異所性痛覚過敏抑制効果の検索:Connexin43阻害薬の三叉神経節内微量投与により誘導されるGAP結合阻害により、第一臼歯の歯髄炎発症後に発現する隣在歯の痛覚過敏はどのような変調を受けるか検索を行う。研究計画Ⅱ:咬筋痛に誘導される歯髄痛覚過敏発症の中枢神経機構解明3.三叉神経脊髄路核の細胞活性の検索:経日的な咬筋過収縮後14日目で、ラットをイソフルラン(4%)にて麻酔後、通法に従い灌流固定を行う。灌流固定終了後に三叉神経脊髄路核と上部頸髄を含む脳部分を摘出し、連続切片標本作成後、三叉神経脊髄路核内でのAstrocyteの活性化マーカーであるGFAPの発現を免疫組織学的手法にて解析する。4.三叉神経脊髄路核におけるアストログリア活性阻害薬の効果:平成28年度および4.で得られた結果に基づいて麻酔後、三叉神経脊髄路核へmini-osmotic pumpシステムを付与する。その後、三叉神経脊髄路核へ7日間投与されたAstrocyte活性化阻害薬は、持続的咬筋過収縮により誘導された逃避行動閾値変化や筋放電量にどのような変化を誘導するかについて解析を行う。
代表者は当該年度で得られた成果の一部をこれまでの成果に加え、"Role of medullary astroglial glutamine synthesis in tooth pulp hypersensitivity associated with frequent masseter muscle contraction"として論文作成を行い、Molecular Pain に投稿を行った。現在投稿した論文は査読者とReviseを行っており、英文校正料および英文掲載料の請求がまだ届いていないため、その費用を次年度に繰り越した。
平成28年度の余剰分は、英文校正料および投稿料に充足する予定である。また、平成29年度の助成金は、当初の予定通り、ラット急性歯髄炎モデルでは1.三叉神経節の活性型Satellite glial cellおよびConnexin43の共発現の検索、および2.Connexin43阻害薬による歯髄炎による異所性痛覚過敏抑制効果の検索を行う。ラット急性咬筋痛モデルでは、3.三叉神経脊髄路核の細胞活性の検索、および4.三叉神経脊髄路核におけるアストログリア活性阻害薬の検索を行う予定であるため、実験を遂行するための消耗品費、成果を発表するための旅費、学会参加費、英文校正料および論文投稿料として使用する計画である。
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