研究課題/領域番号 |
16K11576
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
本津 茂樹 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (40157102)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | エナメル質修復 / Er:YAGレーザー / 象牙質知覚過敏症 / ハイドロキシアパタイト |
研究実績の概要 |
平成29年度は、申請の研究項目の固着メカニズムの解明と固着方法の確立に重点を置いた研究を実施した。堆積膜の固着特性の評価を、ブラッシング試験法と引っ張り試験法により行った。ターゲット材料にα-リン酸三カルシウム(α-TCP)を用い、平成28年度に確立した成膜条件でヒト抜去歯象牙質上に60秒間成膜を行った。成膜後、各象牙質ディスクに対し人工唾液を滴下し、その後口腔内環境を模擬するため象牙質ディスクの周りを人工唾液で満たし、37℃の恒温槽内に静置した。一定時間経過した各象牙質ディスク(24、48、72、120、168時間)に対し、X線回折(XRD)装置を用い結晶性を評価し、その後各ヒト抜去歯に対してブラッシング試験を行った。ブラッシング条件は、速度:90 stroke/min、回数:20 stroke、荷重:200 g、試験ブラシ: SUNSTAR #211である。成膜後の塗布膜の膜厚は一つの象牙質ディスク内で16.6~44.3 μmと大きなばらつきがあった。また、成膜直後48時間経過後の堆積膜のXRDパターンにはHApのピーク以外にα-TCPのピークも残っていることを確認した。このことは、堆積膜全体が完全にHAp膜になっていないことを意味する。Ti基板上に同条件で作製した膜に純水を滴下した場合は、48時間以内にHAp化することから、この結果は成膜後の滴下液として純水ではなく人工唾液を用いたことや、膜が厚かっために膜全体がHApに代わるのに時間を要したためと考えられる。静置時間の異なる各試料に対してブラッシング試験を行った結果、48時間経過以降の堆積膜では剥離は見られなかったことから、堆積膜と象牙質ディスクとの界面近傍では膜のHAp化が生じ、象牙質と強い固着が得られたものと考えられる。4日後の膜の引っ張り試験においては固着強度は4.41MPaを示し、実用に耐えるものであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、 臨床用小型Er:YAG-PLDユニットの試作とその成膜条件の検討、さらに得られた膜の評価に必要な評価項目の一部について研究を実施した。前者では、ネブライザーをミスト供給源としたミストアシストEr:YAGレーザーアブレーション装置を作製し、最適成膜条件ついて検討した。その結果、XRD回折による堆積膜のHAp化への時間経過観察およびSEMによる堆積膜の粒子サイズの評価より、最適成膜条件が確立できた。成膜効率から評価した最適ミスト噴出量は0.41ml/minであることもわかった。また、 Er:YAGレーザの出力・繰り返し周波数を変化させた時の堆積膜の平均粒子径から決定した最適レーザ出力は300mJ、繰り返し周波数は10Hzであった。さらに、レーザーの照射角度は30°から45°で、レーザー先端とターゲット距離は0.5mm、ミスト噴出口とターゲットの距離は10mmが最適であることがわかった。 今年度は、まず平成28年度からの継続課題であった堆積膜のEDXによる組成評価を行い、堆積膜のCa/P比は1.62で、HApの理論値の1.67よりも少し小さくなっており、Pリッチであることが分かった。これは、α-TCP膜全体がHApになっていないことに関係していると思われる。平成29年度の主目的である堆積膜の固着特性の評価を行った結果、200g重さにおける150rpm、20strokeのブラッシング試験では、成膜後48時間経てば象牙質から堆積膜は剥離しないことが分かった。また、引っ張り試験では固着強度は4.41MPaを示し、引っ張り力があまり作用しない口腔内では、十分に実用に耐えるものであった。 以上の結果から、当初の実験計画通りに進んでおり、おおむね順調であるとした。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、申請の研究項目の象牙細管の封鎖性の評価に重点を置いた研究を実施する。まず、これまでの成果を踏まえて、Er-YAG-PLDユニットのプロトタイプをモリタ製作所の協力のもとに作製する。このユニットでヒト抜去歯から切り出した象牙質ディスク上にHAp膜を堆積し、象牙細管の封鎖性を評価することで知覚過敏治療への可能性を検討する。 象牙細管の封鎖性の評価はPashleyらが報告した象牙質透過抑制率測定装置を用いて行う。Dentinal fluidには親ウシ血清を用い、試料ステージにHAp膜の成膜前後の試料を固定し、それぞれのDentinal fluidの移動量を測定することで透過抑制率を算出する。また、堆積膜をもつ象牙質試料をレジンで包埋し、その後基板面に垂直に切断して、堆積膜-象牙質界面を露出させ、低真空SEMにより象牙細管の封鎖状況を観察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費において、物品を少し安く購入できたための差額。残額は次年度の牛歯購入に使用する。
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