研究実績の概要 |
本研究は,歯髄細胞のTNF-α刺激による幹細胞化のメカニズムを解明し,それを応用して効率的に歯髄保護・修復象牙質形成を促す治療法を開発することを目的としている. 歯髄細胞においてTNF-α刺激により誘導されるシグナル経路を明らかにするため,抗体アレイ法を用いた解析を行った.TNF-αのシグナル経路に関与する因子を45種類選択,配置したメンブレンを作製し,rTNF-α(10ng/ml)で刺激した歯髄細胞と無処理の歯髄細胞からそれぞれタンパク質を回収し,抗体アレイ実験を行った.rTNF-αにより刺激した歯髄細胞から得られたタンパク質から,p38MAPK,TRAF1,Caspase3,SODD,RIP,TNFR1,JNK1,2,3 ,IκB-αが検出された. また,本技術の適応拡大に向けて,採取しやすい骨髄由来細胞(Bone Mallow Cell:BMC)においてもTNF-α刺激による同様の効果が得られるか検討した.rTNF-α(10ng/ml)の刺激はラットBMCの細胞増殖や細胞形態に影響を与えず、また未分化性マーカーの遺伝子発現を上昇させることを確認した.続いて,rTNF-α刺激群および非刺激群のBMCを骨,軟骨,神経,脂肪の誘導培地にてそれぞれ培養し,各マーカー遺伝子の発現をリアルタイムRT-PCRにて比較検討した.骨芽細胞マーカー,軟骨細胞マーカー,神経細胞マーカーにおいて,非刺激群の方が高い発現量であったが,脂肪細胞マーカーでは有意差は認めなかった.TNF-αによる短期刺激によって,骨分化においては一時的に遅延する傾向が見られたが、これはBMCの幹細胞性質を持つ細胞の割合が増加した可能性が示唆された. 以上の結果から,TNF-αがBMCの未分化性獲得に関与し,幹細胞性質を保ったまま大量培養できる可能性が示されたことから,歯槽骨や神経の再生,骨折・抜歯窩の治癒促進への貢献が期待される.
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