天然歯周囲の軟組織付着は、結合組織層におけるコラーゲン線維の歯根セメント質への陥入とヘミデスモソーム結合による上皮付着という、精巧な上皮-間葉系相互作用により構成されている。それに対してインプラント周囲軟組織は、ヘミデスモソームによる上皮付着を認めるという報告はあるものの、コラーゲン線維はインプラントに平行に走行するのみで、いわゆる脆弱なバイオロジカルシールを呈する。これが、インプラントの最も頻度の高い合併症とされるインプラント周囲炎の要因の一つとされている。歯肉線維芽細胞はインプラント周囲結合組織の主要な構成成分の1つで、インプラントアバットメントから40 μm の範囲では、その 32%を占めるとされている。したがって、線維芽細胞の付着とそこから産生されるコラーゲンリッチな厚い結合組織をインプラントアバットメント周囲に獲得することが、細菌の侵入や周囲粘膜と骨吸収を妨げ、インプラントの長期予後を獲得することにつながると考えられる。 しかしながら、 現在使用されているアバットメントとしては、チタンやジルコニアなど生体不活性材料が使用されており、機能性を持ったアバットメントの開発が望まれる。本研究ではゾル-ゲル法により作製した非晶質(アモルファス)シリカを表面に応用することで、 歯肉線維芽細胞の接着とコラーゲン産生の向上、さらに抗菌性を併せ持つ新規機能性アバットメ ント表面の創生を目的とした。 前年度までに亜鉛を添加したアモルファスシリカコーティングを行ったジルコニア上で、歯肉線維芽細胞を培養し、total RNAを採取した。本年度はそれを使用してリアルタイムPCRを行い、各種遺伝子発現の測定を行った。その結果、コーティングを行った実験群で、コラーゲン遺伝子発現の上昇を認めた。また、コーティングの組成成分に一定量の亜鉛を添加することで、更に上昇することがわかった。
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