研究課題/領域番号 |
16K11608
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研究機関 | 北海道医療大学 |
研究代表者 |
豊下 祥史 北海道医療大学, 歯学部, 准教授 (20399900)
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研究分担者 |
會田 英紀 北海道医療大学, 歯学部, 教授 (10301011)
川西 克弥 北海道医療大学, 歯学部, 講師 (10438377)
佐々木 みづほ 北海道医療大学, 歯学部, 助教 (70638410)
越野 寿 北海道医療大学, 歯学部, 教授 (90186669)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 咀嚼 / BDNF |
研究実績の概要 |
咀嚼が大脳皮質のニューロンの活性化にどのような影響を与えているかを検討した。24時間絶食させたモデル動物に5分間の咀嚼を行わせ、可及的に素早く安楽死させた後、脳組織を一塊として取り出し、神経細胞内のカルシウムイオンと結合すると発色するCaTM-2で処理を行い、共焦点レーザー顕微鏡にて観察を行った。脳全体を2~3mm間隔でスライスし、断面を観察したが、神経細胞内へのカルシウムの流入、すなわち神経細胞の活動が認められた領域に一定の傾向、法則は認められなかった。 次に、咀嚼による遺伝子の発現について検討を行った。24時間絶食させたモデル動物に5分間の咀嚼を行わせ、可及的に素早く安楽死させた後、脳組織を一塊として取り出し、学習記憶機能と関連があることが報告されている遺伝子群について、リアルタイムRT-PCR法により遺伝子発現の変化を検索した。対照群として固形飼料と同等の栄養価を含む液体飼料を摂取させる群を設定し、比較を行った。その結果、咀嚼を行うことで、脳組織内のCREB、BDNFが有意な上昇を示した。BDNFはシナプスの形成を増強することで学習記憶機能に寄与する因子として知られている。さらにCREBはBDNFの読み込みを開始するための転写因子として知られている。一方、その機能が低下するとアルツハイマーを発症することが疑われているApoEについては、咀嚼を行ってもその発現に変化は認めなかった。しかしながら肝臓で発現しているApoEについては咀嚼によって発現量の増加を認めた。 以上の結果から、咀嚼はBDNFを介する学習記憶機能の増強に有効であること、咀嚼は同じ遺伝子であっても臓器によってその影響は異なっていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定としては、細胞内に流入したカルシウムイオンを検索することで、咀嚼による神経活動の盛んな領域を特定し、その領域と他の領域との遺伝子発現の差異について検討する予定であった。しかしながら、神経活動か盛んな領域に一定の傾向が認められなかったことから、まずは脳全体の学習記憶に関与することが報告されている遺伝子について検討を行うこととした。その結果、いくつかの遺伝子が咀嚼によってその発現が増強することを明らかにすることができた。また、咀嚼による遺伝子発現への影響が臓器によって異なっていることも明らかにした。 神経の興奮よりも遺伝子の発現にターゲットを絞ったほうがより明確な結果を得られることがわかり、今後の実験の進め方の方向性を示すことができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、咀嚼による神経活動か盛んな領域に一定の傾向が認められなかったことから、まずは脳全体の学習記憶に関与することが報告されている遺伝子について検討を行うこととした。その結果、いくつかの遺伝子が咀嚼によってその発現が増強することを明らかにすることができた。また、咀嚼による遺伝子発現への影響が臓器によって異なっていることも明らかにした。今後は咀嚼によって遺伝子の発現が増強される部位の特定を行っていくことをターゲットに研究を進めていく予定である。 これまでの実験で明らかになった遺伝子発現の変化は5分間の咀嚼の効果によるものである。固形飼料または液体飼料でモデル動物を長期間飼育し咀嚼の効果が長期に及んだ場合の変化についても検討を行っていく予定である。
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