研究課題/領域番号 |
16K11641
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研究機関 | 福岡歯科大学 |
研究代表者 |
川口 稔 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 講師 (10122780)
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研究分担者 |
大野 純 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 教授 (10152208)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / 高分子被覆 / 複合体 |
研究実績の概要 |
ナノカーボン素材であるカーボンナノチューブは先端材料として多くの有用性を有しているが、その一つに光熱転換作用がある。これは光エネルギーを転換して温熱発現する性質で、この性質を利用してカーボンナノチューブをガン細胞に結合させて、体外から光(赤外線)を照射することにより、分子ヒーターとなってガン細胞を熱壊死させることが、本研究の戦略方針である。そのためには生体内で安定状態を維持し、標的のガン細胞を識別して結合するす複合体の調製が不可欠となる。そこで、生体内での分散安定性向上を主眼としたNIPAM架橋高分子被覆型単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を調製して分散安定性の確認と生体内動態を検討した。調製したSWCNTは生理食塩水、培養用培地および血清内でいずれも凝集することなく安定した分散安定性を示した。またマウスの尾静脈から注入したSWCNTの経時的体内動態を検討する目的で、一定期間後に臓器(肺、心臓、肝臓、脾臓、腎臓)を摘出し、ラマン分光法によって蓄積量の定量評価を行った。その結果、投与2週間後までは肝臓と脾臓にSWCNTが検出されたが、それ以降は検出されなかった。したがって血中に投与されたSWCNTは投与後2週間程度で体外への排泄経路をたどるものと推察された。排泄経路の確認のために回収尿の分析を試みたが、夾雑物の影響で定量評価ができなかった。 今後、被覆高分子層への抗体結合官能基の導入をすすめ、抗体複合体を調製し、標的タンパクとの結合性評価をすすめるとともに、細胞への取り込みについても検討を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予測通り、高分子被覆型カーボンナノチューブはさまざまな模擬生態環境条件下で安定した分散性を示した。このことは被覆層が分解・変性を受けずに可溶化性能を発揮していることによる。またマウスを用いた体内動態検討においても、投与後の動態追跡をラマン分光によって確認することができた。しかしながら分析に当たり、種々の生体内成分にが夾雑物として定量精度を低下させることが予測されることから、より定量精度を向上させる前処理方法の検討が必要であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究成果から、高分子被覆型カーボンナノチューブは生体で安定した分散性を維持し、生体内での局所的凝集や沈着も観察されなかったことから、免疫療法用ナノ分子ヒーターとしての安定性が確認できた。次年度以降は抗体を結合させた複合体の調製を進めるとともに、細胞への結合や取り込みについて詳細な検討を進める予定である。 その上でナノ分子ヒーターとしてのSWCNT抗体複合体の分子デザインや生体への適用量について基本戦略を確立する方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年夏に加療のため入院した。その後の回復期も含めて、研究の実施に若干の空白期間を生じたため、本来の計画よりも助成金の執行にずれを生じたことが理由である。なお、その後は研究の遂行に支障はなく、おおむね計画通りに進展している。平成29年度は28年度に執行予定だった助成金を含めて当初計画に沿った執行を行う予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
当初計画では初年度の平成28年度に高分子被覆カーボンナノチューブの調製と基本性質の検討を行う予定であったが、当初計画よりも早く調製できたこと、ならびに加療による中断で助成金の執行率が低くなったが、今年度は抗体の結合や動物実験を若干前倒しして進めるため、初年度の予算と今年度の予算を合算した執行を進める予定である。
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