カーボンナノチューブ表面に腫瘍細胞の特異抗体を共有結合し、標的細胞と特異的に結合するカーボンナノチューブ/抗体複合体の基盤プラットフォームとなる高分子被覆カーボンナノチューブの生体内分散安定性と生体内導入後の体内動態について解析を行った。その結果、ポリアクリルアミド系高分子で被覆した単層カーボンナノチューブは、生体内環境下で優れた分散安定性を示し、二次粒子の形成や凝集化は認められなかった。また、高分子被覆カーボンナノチューブは近赤外線照射によって自己温熱発現し、その発熱レスポンスは照射近赤外線の照射強度に依存しており、温熱発現の制御も容易であった。 高分子被覆カーボンナノチューブの生体内動態を解析するため、マウスの尾静脈からカーボンナノチューブを注入し、経時的な臓器(心臓、肺、肝臓、脾臓および腎臓)集積量をラマン分析によって定量化した。その結果、注入後1週間後までは肝臓と脾臓に投与したカーボンナノチューブのシグナルが検出されたが、2週後にはすべての臓器でシグナルは検出できなかった。このことから投与したカーボンナノチューブはほぼ2週間程度で排泄されているものと推察された。また高分子被覆カーボンナノチューブの温熱発現による細胞障害を検討するため、マウスのマクロファージを用いてカーボンナノチューブとの混合溶液を調製し、近赤外線を照射したところ、細胞生存率の有意な低下が認められた。 以上の結果から、高分子被覆カーボンナノチューブは優れた生体内分散安定性を示し、生体内集積性もなく、近赤外線照射による制御温熱発現が可能な複合体プラットフォームとしての優位性を持つことが明らかとなった。
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