研究課題
我々は温度制御式反復温熱刺激(TRTS)依存性にラットPC12細胞の神経突起伸長を誘導する方法を以前見出したが、TRTSによる神経細胞分化率には改善の余地がある。本年度研究では、本研究で樹立したTRTS高感受性細胞株(PC12-P1F1)及び非感受性細胞株(PC12-P1D10)を活用し、TRTSの実用性や汎用性向上の観点からこれら新規細胞株のゲノム的特徴やTRTSにより活性化されるシグナル経路を検討した。[方法](1)上記細胞株からゲノムDNAを回収し、全ゲノムシークエンスによりそれぞれの全遺伝情報を得て、細胞株間の塩基配列差を解析した。例えば樹立細胞株間でBMP感受性が異なることから、各BMP受容体遺伝子について、遺伝子変異の有無を分析した。(2)分化誘導培地に播種したPC12-P1F1を用い、神経細胞分化を誘導するため、TRTS処理(9時間×2回/日)を行った。分化効率を上げるため、JNK阻害剤も処理した。6日後、神経突起形成度を評価した。またタイムポイント(0、3、6日目)を定め、PC12-P1F1細胞株の全RNAを回収し、mRNAシークエンスにより全転写産物情報を取得した。[成果](1)PC12親細胞株、PC12-P1F1及びPC12-P1D10のゲノムを比較したところ、例えば、各BMP受容体遺伝子のエクソン領域はいずれも細胞株間で塩基配列に変異は特にないことが判明した。(2)神経細胞分化過程にあるPC12-P1F1から得た全転写産物情報により、例えばTRTSによる分化誘導開始後3日目において、69種の遺伝子の発現が上昇し、30種の遺伝子の発現が減少した。前者にはBMPシグナル下流遺伝子でかつBMPシグナル経路調節に関わる抑制型Smad遺伝子が含まれたことから、TRTSがBMPシグナルの活性化を通じ神経細胞分化を促進する可能性が示された。
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