研究課題/領域番号 |
16K11650
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中川 雅晴 九州大学, 歯学研究院, 准教授 (80172279)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | チタンインプラント / 腐食 / フッ素 / 歯磨剤 / 口腔内細菌 |
研究実績の概要 |
チタンインプラントは、骨埋入部の表面改質やサージカルステントの利用によって埋入症例が激増している。しかしながら、メインテナンス不良や歯周病患者への埋入により、埋入後数年でインプラント体が脱落または撤去を余儀なくされるケースも少なくない。脱落あるいは撤去されたインプラント体を収集し、歯肉貫通部表面のSEM観察を行ったところ、使用前には見られなかった表面の粗造化が散見されることがある。これらの粗造化は歯磨剤に含まれるフッ素によってチタンが腐食したことが主因と考えられる。水溶液を用いた酸性のフッ素含有溶液中ではチタンは顕著な腐食を示す。純Ti、Ti-6Al-4V合金を試験材料とし、市販のジェル系、ペースト系の歯磨剤を用いて、フッ素濃度300~1000ppm、pH3~6の範囲で腐食試験を継続して行った。これまでに得られた結果は、概ねNaF水溶液系で得られた実験結果と一致しているが、歯磨剤の方が若干腐食しにくい傾向を示した。 チタンインプラントを埋入している口腔内でフッ素含有歯磨剤を使用した場合、たとえばプラークが付着している歯肉貫通部などにフッ素濃度が高い歯磨剤が侵入すると一時的に酸性のフッ素環境となり、チタンインプラントが瞬間的に腐食するおそれがある。また歯肉貫通部は酸素濃度が低いため、そこに酸性化したフッ素が停滞すると腐食が生じやすい状況となる。このような瞬間的な腐食が長期間にわたって経時的に累積することによって腐食が進行すると考えられる。今回の歯磨剤を用いた腐食試験の結果は、口腔内で腐食が進行する可能性を示した。 酸性下の歯磨剤によって腐食したTi表面は、プラークで覆われたTiにフッ素を投入した際に生じる腐食状態と類似していた。 チタン試料表面での口腔内細菌(S sangunis、Todd-Hewitt bros+人工唾液で培養, L salivarius、MRS broth+人工唾液で培養)の培養試験は現在も継続中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
歯磨剤の粘性が非常に高いため、水溶液系に比べて、所定のフッ素濃度、pHに調整することが難しく、また攪拌が容易でないため、再現性のある実験データを得ることが困難である。 歯磨剤を用いてブラッシングを行う際、ブラッシングの初期には酸性状態になっているプラーク付着部位にフッ素濃度が高い歯磨剤が瞬間的に侵入するという現象が日常的に繰り返されている。この状態を再現するために、本研究課題の計画段階では予定していなかったが、試験片を歯磨剤と酸性溶液に交互浸漬する実験を開始した。歯磨剤の粘性が高く、試験片に付着した歯磨剤が酸性溶液へ混入するため、一定の実験条件を維持するのが難しく、交互浸漬繰り返し回数の増加が困難な状況である。 水溶液試験片に付着した歯磨剤を取り除くために、装置に2個の回転ブラシを設置した。また、pHを調整した水溶液にポリビニルアルコールを添加して粘度を上げ、pH緩衝剤を添加することでpHの変化をできるだけ抑えることを行った。 しかしながら、試料表面に付着した歯磨剤を完全に取り除くことが出来ず、pH溶液のpHの上昇が生じるため、5000回までの交互浸漬試験では試料表面に腐食の発生は認められなかった。 試験片上での口腔内細菌(S sangunis、Todd-Hewitt bros+人工唾液で培養, L salivarius、MRS broth+人工唾液で培養)の4週間までの培養による腐食孔の発生も認められないため、さらに長期間培養試験を継続中である。
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今後の研究の推進方策 |
粘性が高い歯磨剤を用いても再現性のある実験結果を得るための実験方法、条件を改善し、引き続き腐食試験を継続する。 歯磨剤、酸性溶液の交互浸漬試験では、試験片に付着した歯磨剤を現在以上に取り去る方法を模索し、実験条件の安定化と繰り返し回数の増加を図る。 試験片上での口腔内細菌(S sangunis、Todd-Hewitt bros+人工唾液で培養, L salivarius、MRS broth+人工唾液で培養)のさらなる長期間培養を継続して行う。 現在行っている実験方法以外で、口腔内環境に近い状況が再現できる実験方法を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定物品の納品が間に合わず、一部購入を次年度に繰り越したため。翌年度にすべて支出予定。
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