Tiインプラントは、メインテナンス不良などの理由で、埋入後数年でインプラント体が脱落または撤去を余儀なくされるケースが散見されている。脱落あるいは撤去されたインプラント体の歯肉貫通部表面のSEM観察を行ったところ、使用前には見られなかった孔(穴)や粗造化が観察された。これらの孔や粗造化は歯磨剤に含まれるフッ素によってチタンが腐食したことが主因と考えられる。近年高濃度フッ素配合(1450ppm)の歯磨剤も市販されるようになり、フッ素によるチタンインプラントの腐食に対する関心が高まっている。酸性のフッ素含有溶液中ではチタンは顕著な腐食を示すことは筆者らの研究で明らかとなっているが、歯磨剤を用いた研究はなされていない。純Ti、Ti-6Al-4V合金を試験材料とし、市販の歯磨剤を用いて、フッ素濃度300~1500ppm、pH3~6の範囲で腐食試験を行った。その結果、概ねNaF水溶液系で得られた結果と一致したが、歯磨剤の方が若干腐食しにくい傾向を示した。チタンインプラントを埋入している口腔内でフッ素含有歯磨剤を使用した場合、プラークが付着している歯肉貫通部などにフッ素濃度が高い歯磨剤が侵入すると一時的に酸性のフッ素環境となり、チタンインプラントが瞬間的に腐食するおそれがある。また歯肉貫通部は酸素濃度が低いため、そこに酸性化したフッ素が停滞すると腐食が生じやすい状況となる。このような瞬間的な腐食が長期間にわたって累積することによって腐食が進行すると考えられる。 チタン試料表面での口腔内細菌(S sangunis、L salivariu)による腐食については、培養を6ヶ月まで行ったが、孔や粗造化は観察されなかった。口腔内細菌によるTiインプラントの腐食はさらに長期間の培養で生じる可能性は否定できないが、酸性のフッ素環境下での腐食に比べると発生の可能性は非常に低いと考えられる。
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